事実は唐突に発覚しました
待ちに待っていたかわからない球技大会である。
バレ―ボールなんてそもそも本気でやる気など無かったのだが、体育館のサイドにある観覧スペースに濱村を見つけてしまったオレは、俄然やる気をだしてそれに臨むことになってしまった。
ちなみに、うちの学校には体育館が二つあり、バスケの試合はそちらの体育館で行われているらしい。ちなみに、その体育館は、普段はサッカー部の雨の日の練習場として使われている。格差社会とはこのことを言うのだろうか。全く、不公平なことだ。
「元希っ! あげんぞ!」
サッカー部の小山が叫ぶ。濱村も見ているので、オレは仕方なく、その指示に従い、地面を蹴り、飛んだ。
テレビじゃアレだけかっこよく見えても、バレーボールとは素人がやるとどうも間抜けなスポーツに思えてならない。しかし、バスケじゃバスケで、濱村の得意分野なわけで、あまりカッコはつかないだろう。
手を振りおろす。ちなみに右手。こんなくだらねーイベントで利き手を突き指したら笑えない。
コントロールはお粗末だったが、とりあえず相手のコート内には入ったし、良しとしよう。
「オマエ利き手使えよ!」
「足でやる競技してるテメ―と一緒にすんなっつの! 入ったんだから問題ねーだろ!」
「オレはキーパーだっ!」
そう返しながら観覧スペースにもう一度目を向けると、恐ろしいことが起きていた。秋丸が濱村に話しかけているのだ。
そして、気付く。あいつの試合はとっくに終わったハズなのに、なぜかそこにはアイツの姿がない。
「オイ! 元希ボーっとしてんなっ! オレの夕飯がかかってんだぞ!」
「オマエの事情なんかしらねーっつの!」
そういえば、山本が今第二体育館で試合をしているんだっただろうか。記憶は曖昧だが、そうだった気がする。
そうすると、アイツはそれの応援に行っていると考えるのが自然かもしれない。
今度は斉藤がトスを上げ、小山がスパイクを決める。
小山は学年一のイケメンだのと騒がれているので、女子の黄色い声が飛び交う。斉藤もオレも、所詮は小山の引き立て役でしかないらしい。野球の試合ならそんなこともねーのに。まあ、かまわねーけど。
濱村は、オレを見てるから。
「榛名くんお疲れ様」
試合終了後。なんと濱村がタオルを差し出してくれた。青春っぽいイベントに、なんとなくドキドキする。
さや子とは、殺伐としたイベントしかクリアしてこなかったからだろうか。オレはこういうのに免疫がないのかもしれない。
「おお、サンキュー」
「なんでもできるんだね、榛名くんは」
「勉強以外な。オマエは勉強も出来んじゃん」
「榛名くんも出来ないこと無いじゃん。飲み込み早いし。英語はいつもそれなりの点数らしいし」
なんでそんな事を知っているのだろう。疑問に思ったのでそのまま訊ねてみれば、濱村は少しあわてながら答えてくれた。
「この間、生徒会でお世話になってた、卒業しちゃった先輩と会って、なんか榛名くんのことよく知ってるみたいで、それで聞いたというか」
嫌な予感がしたので、その件はスル―することにした。その先輩はロクなヤツじゃねーから気をつけろと言ってやりたいが、この様子からすると濱村はアイツのことをそれなりに気に入ってそうだし。どうしたものか。
「知ってるでしょ? 私たちが一年の生徒会にいた、石神井先輩。越石さん達も文芸部でお世話になってたって人なんだけど」
しらねー。と言いたい。しかし、ここは別に嘘をつく場面ではないだろう。
「あー、幼馴染っつーか、そんなんなんだよ」
「なるほど。だから色々知ってたんだ」
あの人にはオレの元カノも酷い目に遭わされたらしいし、出来れば濱村とは関わって欲しくないのだが。まあ、流石にアイツでも自分を慕う後輩に酷いことはしない、と、信じたい。
「そういや、アイツは?」
というわけで強引に話を変えた。これ以上あの女の話はしたくなかった。こういう日に限って家にあがりこんでオレの帰りを待ってたりするからタチ悪いんだよなあの女は。
「越石さん? 山本くんの応援に行くって。」
「あっそ」
「まだ向こうにいるだろうし、勝った報告しにいったらどうかな? 越石さん初戦負けだから悔しがるよ、きっと」
「は、アイツ途中まで勝ってたろ? 負けたのかよ。ンじゃいってくっけど、オマエは一緒に行くか?」
「いや、いいや。いってらっしゃい」
そう言われ、別れてから、秋丸と何話してたか聞くの忘れたな。等と思ったが、オレは別にアイツの彼氏でもなんでもないわけで、自分がキモかった。
好きになったらとことんのめり込むのはオレの悪い癖だと思う。
第二体育館の通路で、彼女は試合を終えた山本と会話していた。というか泣いていた。
「は、」
理解不能だった。何があったのか聞けばいいだけなのに、近くに寄ることが出来ない。足が硬直して動かない。
アイツが泣く理由。過去に泣いたのを見たのは一度だけ。あの時はオレの胸で泣いていた。
山本が、アイツの頭を撫でる。体育館に設置されている自販機の陰に隠れるオレ。親友ってなんだよ。親友って、どんな立場のコトだ?
耳を澄ましてみれば、二人の声が微かに聞こえてきた。
「……ごめ、んね。山本くん」
「いや、いいって。しょうがねーと思うし。オレも悪いし。ほら、泣くな泣くな」
まさか、山本をふったとか。等と思ったのだが、それでも越石が泣く理由がわからない。
逆か。アイツが山本に告ったとか。それでしょうがねーとか言う山本は自意識過剰過ぎるけど。
つーか、アイツは山口先生が好きだったハズだろ。そういや、その話もしていない。冬休みも終わったのに、手紙の件についてはオレの中では何も解決していないのだ。
そんな風に思考が道草をくった時だった。彼女の言葉で、オレの心臓が、大きく脈打った。
「私――――」
西中が死んで、アイツは泣いた。あの時と同じように、彼女の感情が揺さぶられている。
「榛名が、好きだったんだね」
その原因になったのは、どうやらオレらしかった。
2011/09/17