強がってみました
そう言われてみれば、球技大会が終わればバレンタインなのだった。
榛名と別れ、家で湯船に浸かりながら、今日の会話を思い出す。
山本くんの言葉。彼女さんの独占欲が強ければ、私は榛名の横にはいれなくて、濱村さんは、まあ、皆さんも知っての通り、独占欲が強い。
そうなると、もし二人が付き合ってしまったら、私は今度こそ一人になるのだろうか。
「ベッツに、構いませんけどねー」
自分でもはっきりわかった強がり。わざと声に出したのが裏目に出たのか、虚しさが倍増した。
バレンタインなんて忘れていたけど、当初の予定では、一応榛名にはあげようと思っていて、でも、こうなるとあげづらい気もする。
バレンタインで、義理チョコでもあげてしまえば、榛名は男で、私は女。榛名により、女を意識させてしまって、隣に置いてもらえなくなる可能性は上昇。それは何としてでも避けたいけれど、でも好きな子がいるらしいから、と、チョコをあげないのはあげないので、白々しい、というか、私が榛名を意識してるみたいだし。
大体、なんで私がこんなに悩まなくちゃならないんだろう。
友達というのは、こんなにめんどくさいものだっただろうか。
湯船に口をつけて、小さな頃やったように息を吐く。
ぶくぶくとたった水泡は、あっという間に消えて、私と榛名の仲も、こんな風に消えてなくなってしまうのだろうか、なんて。
そもそも私が彼と友達になって、まだ半年も経っちゃいないのだ。
絆の深さ=付き合いの長さ。というのを信じている私からすれば、榛名と私の絆なんて浅いもので。
親友なんて、形ばかりの口約束で。
「こういう相談に乗るのが、親友だろって話だよ。全く」
言ったところで、やはり、虚しいだけ。
でも、浅い付き合いなら、それが無くなっても、傷も浅く済むに違いない。
私は、人に支えられながらも、いつも最後は一人だったのだから。
前となんら変わらない日々に戻るだけ。今回も、たまたま、スタートに戻るというマスに止まってしまっただけなのだ。
誰かに踏み込もうとしてみたけど、感情をぶつけてみたけど、それじゃ足りなかったのだろうか。等と考えても、答えは既に出てしまってるのだ。
今更、色々確認したって、ねえ?
なんて言い訳をしながら、私はお風呂からあがる。
濱村さんに、詳しい話を聞くのが怖いとか、そういう気持ちは全くないが、今聞いたって、濱村さんも悩んでる最中だろうし、私が変な横槍を入れるのもおかしいし、そっとしておこう。
脱衣所の鏡には、浮かない顔なんてしていないいつもの私が映っていた。その表情に自分で安堵しつつ、深呼吸。
バスタオルで、悩みも拭い去り、全部忘れたことにした。
だって、今までと変わらないだけなら私は生きていけるし。悩む必要なんて、これっぽっちもないじゃないか。
春は、榛名なんて知らなくて、夏の頭くらいには、榛名くんに彼女がいたから、ただのバカップルってイメージで、そういや、なんで別れたんだろう。まあ、どうでもいいけど。んで、九月に西中さんが榛名を好きになって、十一月の頭には西中さんが死んじゃって、十一月の中旬に、漸く会話して、その数日後には友達になって、十二月に親友になった。
榛名は、私にとって、それだけの人なんだ。多分、榛名にとってもそれだけ。
それだけの人なのに、いつの間にか、思いのほか大切になってただけ。
鏡に映る自分の頬に、髪から垂れた雫が涙のように伝っていた。
急いでそれも拭って、パジャマに着替え、ドライヤーもかけずに、自分の部屋に戻る。
ベットに勢いよく倒れこみ、掛け布団を抱きしめた。
どんな時でも私を受け止めてくれる。なんて存在は、家族とこの布団だけでいい。
「榛名くんなんて――――」
続きが言えないのは、言うまでもないからだ。当てはまる言葉が見つからないわけじゃない。
そうやって何かを誤魔化そうとしていた時、気を利かせてくれたのか、タイミング良くベットの横のチェストの上に置きっぱなしにしていた携帯が震えた。私は芋虫のようにベットの上を這って、携帯に手を伸ばす。
届いていたのは私が勝手に噂していた彼からのメールだったので、私は、初めて彼からのメールを無視した。やっぱり携帯ごときが人間様に気を使えるわけがなかった。寧ろ空気を読め。というわけで、恨みを込めて携帯をベットの端に放る。
今度はタイミング悪くもう一通メールを着信した携帯。流れからして誰からのメールかは察しがついたので、もう取りには行かなかった。
二人とも息ぴったりじゃん。もう付き合えよ。
ああ、榛名は付き合いたいんだっけ? せいぜい頑張ればいいじゃん。
親友にあるまじきことを考えながら、私は枕に顔を埋め、強引に意識を手放す。
嫌な夢は見たくないなあ。と、思った。今なら、強引に命を絶った西中さんの気持ちもわかる気がした。
だって、死んだら嫌な夢すら見なくて済むのだ。
2011/08/28