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何から話せばいい。
真っ白な頭の中で奇跡的にポツンと浮かぶ罪悪感を伴う恋愛感情。
話したくないとだだをこねる理由もないのに、オレの脳みそは彼女に事情を説明することを拒否するのだ。
「今日、新年会したんだよ」
「知ってる。来れなくてゴメン」
「いや、来てくれたし、良いんだけどな」
心音は未だ落ち着かない。表面上落ち着いたふりは出来ても、こいつには見透かされている気がしてならなかった。
「で、どうしたの?」
「秋丸が先帰って、そんで濱村とオレで残って話して」
「うん」
「球技大会の話、して」
「で、」
続きがわからなくなる。それで、オレはなんの話したんだ?ここからが重要なハズなのに。続く言葉が口に留まって腹の中に戻っていこうとする。
飲み込みたくなるのを堪えて。オレはそれを吐き出した。
「バレンタインの話になった」
生きていたなら西中からのチョコ欲しがったくせに。さや子がそうオレを罵っても仕方がないと思ったし、軽蔑されるかと思った。
「それで、濱村さんにチョコ要求したんだ?」
いつの間にか開いていた携帯をパチンと閉じて、さや子が言った。
心臓が、跳ねる。
言葉が出てこないので、オレは無言で頷いた。そういえば、オレはこいつと初めて話した時も、こうやってこいつの質問に頷くことしかできなかったのだ。
あれが、始まりだった。
「そっか。良かった」
「は?」
「いや、榛名が普通に恋愛出来てるならよかったよ。西中さんも安心してるんじゃない?」
矛盾しているかもしれないが、彼女のそのセリフが少し不快に思い、同時に安心した。
西中の気持ちを彼女が勝手に決めるのも、相手がよりにもよって濱村だということに文句の一つもないことも、不快だったし、安心感があった。オレが、周りとの関係を変えようと、コイツは変わらないのだろう。というような、安心感。
昔、誰かに同じように感じたことのある。見捨てられない安心感。
あまり思い出したくない過去……というわけではないのだが、本筋には関係の無いことなので、閑話休題。
さや子が大人しくオレの返事を待っているので、返事をきちんとかえしてやる。
「非難とか、しねーのな」
「ん?まあ、私も濱村さんとお友達続けてるしね。あの子良い子だよ」
「そーか」
「というか、良い子だから、今度こそ早く動かないと誰かにとられるかも」
いや、アイツは男が苦手なはずだから、滅多な事がなければ他の男にとられる心配はないのだろうが、まあ、そのことは言わないでおこう。秘密事は無しと言いつつ、秘密はこれからもどんどん増えて行くだろう。オレのだけではなく。こいつのも。
なんでも話せるのが、親友ってわけではないのだと思う。
そして多分、さっきの安心感が親友の意味だ。
「オレ、濱村が好きだ」
「うん」
「もー、スゲー好き」
「うん。」
にやけるわけでもなく、淡々と返事をする彼女に、逆に恥ずかしくなってきた。
からかってさえくれれば、照れるタイミングもわかるのだが、タイミングが分からないのが困る。
「ったく、照れないでよ」
そういえば、いつだったかも同じことを言われた気がする。
そうやっておぼろげに思い返せるほどに重ねた彼女との時間。それもきっと、彼女が親友だという証、で?
そして、オレは漸く違和感を覚える。親友なんだから、と、親友を微かに強調した、彼女の、妙な不自然さ。
ただ、なにがあったか話してと言うわけではなく、わざわざ、親友なんだからと言った、彼女の本心。
それがオレにはわからなくて、きっと彼女自身ですら、理解していない。
そして、オレ達の中で何かが変わり始めた。
2011/08/13