依頼されました


「なんで結局彼女さんがいるの」

「いや、こいつと離れてらんねーンだよ、オレ」

「バカだよね」

というかバカップルだ。こいつらは素で、「ほっぺにご飯ついてるよ」とか言って相手の頬に付着したご飯粒をとった後、自分の口に運ぶんだろう。榛名とのやりとり、(一章の三話参照)を思い出した。

私たちは今、図書館内にある喫茶店で昼食をとろうとしているのだが、二人ともご飯ものは注文しなかったのでそれは見れないかもしれない。いや、もしかしたら、パスタでも「ソースついてるよ」をやらかしてくれるかもしれないが、それを目の前でやり始めたら私は帰ろう。

「ゴメン。ミサ、ママから電話きたからちょっと外行ってくるね」

そう言って、川内さんが携帯を片手に外に出て行ったのを見送った後、山本くんはなぜか急に真剣な顔をした。

「ぶっちゃけ、オレさ、ミサのことで越石にお願いがあるんだよ」

「なに?」

嫌な予感しかしない。好き好んでバカップルに関わりたくないのは当然として、山本くんは私を何か勘違いしている気もするし。

「ミサ。浮気してるかもしんねーんだ」

「へえ、それまたどうしてそう思うの」

傍から見りゃあ、ラブラブ以外の何者でもないバカップルなのに。

気持ちを落ち着けるように、パスタより先にきたコーラを飲んでから、山本くんが口を開き、理由の説明を始める。

「今の電話だって本当に母親かわかんねーし。最近こういう席外す形の電話、多いんだよ」

「ふむ。まあ、一理はあるわな」

彼氏との時間より優先させたい電話。しかもきかれたくないような内容。浮気の可能性がないとは言えないけど。でも、そう決めつけるのもどうかと思う。

「で、それが? 私に何の関係があるのかな」

「調べてくんねーかな」

「はい?」

「オマエと元希、探偵ごっことかしてたじゃん? だからさ、それの延長線上で、遊び感覚でもいいから……頼むよ」

その時、喫茶店の入り口に川内さんの姿が見えたので、その会話は強制終了された。最後に、じゃ、よろしくな。と、言われたところをみると、私はその依頼を受けることになってしまったらしい。

全く、面倒なことになったものである。



図書館で本を読んでいるとき、今度は山本くんが消えた。お手洗いだそうだ。

「ねーねー。洋くんってかっこいいよね」

またそれか。

「あー。ソウデスネ」

「やっぱりそう思うでしょ? ふふふ」

「川内さんさ、私と山本くん、最初は二人で出掛ける予定だったの知ってる?」

図書館なので小声でそう問いかける。もしこれで知らないようなら、山本くんだって浮気者予備軍である。

いや、目の前で会話してたから知らないわけないんだけどね。念のため。

「ん? 知ってるよ」

「それが嫌だったから着いて来た、とか?」

「んーん。暇だったからだよー」

え? え? え?

バカップルって、浮気とかに敏感なんじゃないの?先ほど仕入れた偏った情報を思い出しながら私は首を傾げる。

「川内さん。山本くんが他の子といるの嫌じゃないの?」

「ベッツに浮気くらいかまわないよ」

誰も浮気なんて具体的な事いっていないのだが、それは自分も浮気しても構わないと思ってるってことにならないか?

「なんで?」

「だって、どんなに浮気してても、洋くんの本気はミサだけだし。浮気なんて義理チョコ程度にしか意味ないし」

「じゃあ、川内さんは浮気したりするの?」

「まっさかあ! 洋くんはミサとちがって独占欲強いもん!」

大きめの声に、周囲の視線が集まり私と川内さんは顔を見合わせ、声のトーンを落とした。

「え、と。そうなんだ」

「うん。そうだよ」

そしてしばらく私は会話をせずに本を読みふけった。

五分後くらいに、本を抱えて山本くんが帰ってきて、その本の中から、数冊お勧めだという本を教えてくれた。約束通りである。

「あ、そういや、夜どうする?」

「ん、あ、ごめん。ちょっと夜用事できちゃって、晩御飯は彼女さんと二人でどうぞ」

そういえば、今日は榛名が公園で新年会を開いているらしいのだ。今朝、濱村さんからそういうメールがあったのである。

この間の電話はそれの誘いだったらしい。

「そっか、じゃあ今度学食でなんかおごるな。約束だし」

「いいよ。本当に夕飯狙ってたわけではないし」

そんな話をして、それからもそれぞれ本を読んだり、バカップルが静かにいちゃついてるのを横目で見たりして、解散となった。



「そういや、用事の相手って元希?」

「うん、まあ」

「ふーん。アイツさ、結構雰囲気に流されやすいし、ちゃんと捕まえた方がいいと思うぜ」

「付き合ってないから」

ベツに好きですらない。

「それなら尚更だよ。付き合ってないなら尚更ちゃんと捕まえとかなきゃだめ、アイツは普通に他の子好きになる奴だから」

「ベツに、私は榛名のこと好きじゃないよ」

「でも、大切なんだろ。隣に居て欲しい。あの手のタイプは、彼女が出来たら気にして女友達と遊べなくなるタイプだ。相手が相手で、女の子と遊ばないでほしいって思うような子だったら、オマエは元希の隣にはいられなくなる」

それは嫌だと思った。榛名の隣は。片側だけでもいいから、私のものにしておきたい。

「じゃ、それを踏まえて行って来い」

「うん、じゃあね」

ありがとうは言わなかった。このアドバイスは夕飯の代わりにもらっておくことにしたからである。



公園に着くと、榛名が一人でベンチに座っていた。後ろから見てるとなんか間抜けだった。

とりあえず声をかければ、過剰に驚かれた。何かあったのだろうか。

「もう終わっちゃったんだ?」

とりあえず確認すれば。肯定を意味する言葉が返ってきた。

しかし、やはりなにかおかしい。

「……なにかあったの?」

榛名の隣に腰をかけると、携帯が震えた。メールらしい。

画面には、現在の状況を説明する文字。なるほどね。と、納得した。この状況にも。山本くんの言葉にも。

『榛名くんにコクられたかもしれなう』

うん。動揺で一回押しすぎたまま送信してきてるけどね。なうって。某呟きサイトですか。

「親友なんだから。話してよ」

ちゃんと話してほしかった。榛名の気持ちにも納得してあげたいから。



2011/07/31
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