少し仲良くなってみました
部活動に明け暮れていたら、あっという間に年は明け、今日は冬休みの最終日である。
先ほども言ったとおり、冬休みはまさにあっという間だったというか、充実していたというか、つまりどういうことかというと。
オレは忘れていた。長期休み最強のボス。大量の課題というものを。
またの名を宿題というその強敵は、オレ一人では倒すことのできない、倒したことのないツワモノであった。
と、いうわけで。
「もしもし秋丸?オレだけど……って、ああ?課題は自分でやれ?ダレもンなこと……は?とにかく今日はあいてねーだと?わかったっつの。ああもうウッゼーな。黙れもう切るからな」
とりあえず最高に腹がったった。いや、自業自得だが。
その後、さや子にも電話をしてみたが、山本との先約があるとかで断られ、つまり山本もアウト。チェンジである。まあ、それは冗談だが、他数名の友人にも同様に断られ。そして、最終的に。
「え?来てくれんの?」
オレは、あてにしていなかった、最後の手段と課題を進めることになった。あとでわかったことだが、そいつは俗に言う、学年主席というヤツだったらしい。
「あけおめ。」
「おう、あけおめ」
うちの近所でそいつが唯一わかるという、うちのマンション近くの公園で、オレ達は待ち合わせすることにした。
そこに現れた彼女――――濱村理音(コトネ)の、姿に、相変わらずオレは少し警戒をしてしまったが、これから勉強を教わる身だというのに、失礼な気もして、オレは意識している部分の警戒は解くことにした。言うほど簡単なことではなかったが。
「二人きりが嫌なら、ベツにファミレスでもいいけど。」
「は?」
「だって、榛名くん、顔が強張ってる。」
「ンなこと」
「いいんだって。わかってるし、それがふつーだから」
そう言って、彼女は近所のファミレスに向けて歩き出した。これは、止めるべきなのだろうか。ファミレスに行くということは、つまり、オレが彼女を警戒しているということで、それは、普通に考えれば、失礼なことで、
だからオレはとっさに、彼女の腕を掴んでしまった。
そしてその時、あからさまに、濱村がビビった。
「……あのさ、オマエ」
「なに?」
びっくりしたのではなくビビったのだ。この違いはわかりにくくも、重大である。
「女が好きなんじゃなく、男がキラ……」
「違う」
「いや、違わねーだろ。」
「ベツに嫌いなんじゃなく、苦手なだけ」
気まずそうに言う彼女の為に、オレはこのままファミレスに向かうことにした。
つまり、二人きりが嫌だったのは、オレじゃなく濱村だったわけだ。そして、勉強を教えてもらうというオレの立場から考えれば、彼女の教えやすい環境を優先すべきだろう。
「ていうか、私、そもそも女が好きなわけではないよ」
「は?」
「優香だけが好きだっただけ。」
そんなこと、オレに言ってどうすんだとも思ったが、そうやって少しずつでもオレに近づこうとしてくれる濱村が、少し嬉しかった。
そして、男が苦手な癖にこうして勉強を教えに来てくれるということは、彼女は彼女で、きっと何かを変えようとしているのだろう。
それを手伝ってやりたいと、図々しくも、そう思った。
「そうか」
こういう時に気のきいた言葉の一つも言えないオレだが、課題のお返しくらいはしてやりたかったのだ。
2011/06/11