単独行動に走りました


翌日の放課後。私は待ち合わせ場所に向かう前に、図書室に寄っていた。例の本のあった場所を確認しておくべきだと思ったのである。

私の記憶が正しければ、入り口から数えて四列目の本棚の奥のほうに置いてあったはずだ。

そもそもこの本は、濱村さんがこの件に関係なかった場合、犯人を見付けるのに必要な、なんらかの情報が含まれているのではないかと思って、(まさに、このような形で。)学校が少しばかり落ち着いてきたころに借りたものであるわけなのだが、その時もこの本はその場所にあったと思う。

この学校の図書は、返却後、自分で棚に返すわけではない。

つまり、図書委員が決まった場所にきちんと戻すのだ。

ならば。と私は思う。

ならば、この見つかりにくい位置というのは、何なのだろう。意図せずこの本なのか。意図してこの本なのか。

位置を配慮しただけの本なのだろうか。それとも、二人とも中身に用があったのだろうか。いや、どちらか片方でも、中身に用があったのだろうか。

つまり、二人は、お互いを知っていてこんな遊びを企てたのか、知らず知らずのうち、こんなやりとりをしていたのかということなのだが。

「前者はあまりないような気がする。」

その本棚の前で小さな声で呟く。

そんな遊びするなら、彼女は濱村さんを誘うと思うし。彼女が榛名くん以外の男の子に対して、(ベツに男嫌いであったわけではないが。)そんな事をして遊びたいと思うほど、興味があったようにも思えないのだ。

まあ。ああいう言葉使いをする女の子だっていないことはないし、(クラスの浅倉さんとかね。西中さんと話してるとこは見たことないけど。)それこそ、メールや手紙での印象ってのは変わるものだし、普段の言葉使いとは違うかもしれない。しかし、そんなことを今言ったとしても、意味がない。せめて、絞るべきなのだ。この線で、思い込みで、絞り込んで絞り込んで、この線を、男の子である可能性を否定された時に、女の子の線で調べるべきだ。

広すぎる試験範囲なんて、それこそ当てにならないわけだし。

だから私は前回も、本のことは後回しにした。一つの可能性を最初に潰すことにしたのだ。前回は、一番嫌な可能性から調べた。その可能性が一番高かったし、それを否定して貰えたら、後が楽だと思ったから。

なので、今回も一番可能性が高いところから調べたい。のだが。

違和感があった。

すでに冨永くん一人に絞れたのに、なにか言いようのない違和感があった。

だからこそ、私は本棚を調べに来たのだ。その本棚がなぜか気になった。

確かあの本は、小説の類で――――……え?

小説の、類?


確認の為に、私はすぐさまその本棚に歩み寄り、それが並べてあった場所を確認する。

あの本と同じ著書の名前が並ぶ。私もこの著者を知っている。

ただ、勉強をしに来ていた冨永くんが、清廉潔白な彼が、本当に小説などを手に取ったのだろうかなんて、偏見染みたことを思っただけなのだが、これは違う。冨永君は、あの手紙の主じゃない。はっきりと気がついた。

この可能性が、この線が間違いなく一番有力だ。作戦なんて待っていられない。というか、この線を調べるのは、私一人で十分だ。


否、一人がよかった。どうしても。


この可能性もまた、私の一番嫌な可能性だったのだ。だからなのか、私は今回は最初からこの考えを念頭に置いていなかった。無意識に避けていた。避けたかった。もう一つ知りたくて知りたくなかった真実が、明かされてしまいそうだったから。

しかたなく、強引に、私はその人がいるであろう場所に足を向ける。

すまないが榛名くん。今回の君には見せ場がなさそうだ。なんて、無理やり呑気に考えようとしながら、私は。



2011/05/04
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