聞き込みをしました
「ベツに今回は手伝ってくれなくてもいいのに」
「オレも知りてーンだっつの」
というわけで、私達はこの昼休みに図書室に訪れている。
犯人(というのもおかしいが)は、多分本を介して西中さんと文通をしていたのだと思うのだ。
つまり、その人も、西中さんのように頻繁に図書室に通っていたということになる。
図書室というのものを利用するとしたら、昼休みか、放課後だろう。
この学校は、どこかの誰かさんのせいで、サッカー部以外の運動部も最近妙にやる気をみせているし、文化部までそれに便乗していたりするので、人目を気にする必要が無いくらい、特に放課後は人がいない。まあ、昼休みだって大して賑わってはいないが。
それに、大抵のひとは本を借りて行くだろうし、読み終わってからその本を返しに来ると思う。
となると、西中さんが図書室へと足を運んでいた頻度から考えて、本を借りずに、または借りていたとしても、一週間に二回以上図書室に顔を出していた人と考えるのが妥当だろう。
というわけで。
「あ、いたいた。山本くん」
「んあ?越石?と、元希じゃん。めっずらしーな。図書室に来るなんて。特に元希」
「うっせ、黙れ。」
「で?どうしたん?つか、越石は早く本かえせよー。もう二週間たったろ」
「だから、延長の手続きに来たんだよ」
「ああなるほど。オッケ。」
彼は山本洋二。図書委員である。
私が本を差し出せば、彼はカタカタと貸出管理用のパソコンに何かを打ち込み、最後に本に貼ってあるバーコードを読み取って、私から本を受け取ることなく手続きを完了した。
「後さ、聞きたいことがあるんだけど」
「まーた、探偵ごっこ?あっきねーなあ、お前ら。で、聞きたいことってなに?」
「探偵……?まあ、いいけど。あのね、図書室に一週間に二度以上くる人を聞きたいの。」
「えー。男?女?どっちも?」
「一応どっちもかな」
「まず、あー、ほら、お前も知ってるだろうけど西中だろ?三年の岩崎先輩だろ。あとC組の水村さん。女はそんくらいだな。」
「男の子は?」
「男はあんま本借りてかねーやつばっかだからあやふやだけど、一年の冨永と、ソウジ先輩とタケ先輩がよく一緒に来てたな。まあそんくらいじゃね。ちなみにソウジ先輩とタケ先輩は、多分ホモだって噂が」
腐女子へのサービスっぽい設定はどうでもよかったが、その情報から考えれば、冨永って子が一番怪しい。『死ぬな』という書き方を女の子がするとは思えないのだ。
まあ、一応、念のためには聞いたが。
「冨永ってどんな奴?」
私が思考を巡らせている横で、同じ結論に辿り着いたのか、榛名くんが聞いた。
山本くんは、少し悩むそぶりをみせる。
「んー。冨永は、いい奴、かな。うん。」
「いい奴?」
「具体的にはどういい奴なの?」
「どうって。ホントいい奴なんだよ。よく会話すんだけど、非の打ち所がないんだよ。全く。しかもそれが気持ち悪くない。」
「無邪気とか?天真爛漫みたいな?」
「いやいや、悪いことを悪いと感じさせないんじゃなくてさ、ホント……無垢?っつーのかな。清廉潔白なやつだよ。頭も良くてさ、図書室には勉強しに来てた感じ。」
無邪気ではあっても――――……
……―――無垢というわけでは、なかった。
一週間前私はそんなことを榛名に言った気がする。
その言葉が、真実なのかは未だわからないままだが。
「ホントにそんな人、いるのかな。」
図書室を出て、私は呟いた。清廉潔白。そんな人あり得ないと思っていた。
だって、そんなの気持ち悪いじゃないか。(いや、山本くんがいうには冨永くんは気持ち悪くないらしいが)
「オレにはその説明自体よくわからなかったけど、いてもいいんじゃねーの?」
「榛名くんってホント能天気だよね。」
もし、そんなひとがいるなら、もし、西中さんまでもがそんな人だったら、私はどうしよう。
なにか、無垢な理由で、あくまでまっ白なまま、あの子が自殺したのだとしたら、彼女を疑った私は
「オマエは難しく考え過ぎなんだよ」
「ベツに、そんなこと」
「オレから見たら、オマエだって性格はわりーけど、いい奴だしな」
「そういう問題じゃないんだけどそれに、それはなんか変。」
でもまあ、榛名くんの言うことは間違っていないのかもしれない。
榛名くんだって、無邪気で、無垢だ。性格はとても悪いけれど。
「……まあ、いいや。榛名くんが言うならそれで。」
「オマエ面倒になっただけだろ」
「ちーがーいーまーすー」
榛名くんと友達になって、本当に良かったと思う。考え方も広がったし。
調子に乗るだろうから本人には絶対言わないけどね。
2011/04/19