最後の晩餐


女王に夕食に誘われ、三月ウサギとオレは何故か今、城で飯を食べることになっていた。

あさ子はなかなか帰ってこない。双子にでも捕まったのではないかと思っていたのだが、双子も先ほど城に戻ってきて、オレの向かい側に座って飯を食べている。

ちなみに、体のサイズは女王に頼んでばっちり元に戻してもらった。

「多分、あさ子はみんなに別れの挨拶しに行ってるんだよ」

「あいつは向こうに戻ったらもうこっちにはこれねーわけ?」

「うん。記憶にも残さないよ」

「それじゃあいつの数年が無駄になるってことじゃねーか。酷過ぎンじゃねーの、それ」

「変わりの記憶はきちんと残すよ。この世界のことを覚えているより幸せさ」

思い出っつーのはそんなものじゃねーだろ。そう思ったが、ここで何を言おうと意味がない気もしたので、オレは何も言わなかった。



しばらくすると、あさ子が城に戻ってきて、オレの姿を見つけるなり嬉しそうな顔をして飛び付いてきた。

「ああ、良かった!ちゃんと辿り着けたんだねアリス!」

「気持ち悪いから普通に名前で呼べっつの」

「わかったよ榛名。そうだ、事情は全部きいた?」

「ったく、なんで素直に事情話さねーんだよ」

「だって退屈だったんだもの。事情話して来てくれるか不安だったし。」

最初のアレは半分本音ということだったらしい。

呆れていると、抱き付いたまま離れなかった彼女が漸くオレから離れた。そして、少し寂しそうな表情を浮かべ、女王に向き合う。

「女王様、短い間でしたけどありがとうございました」

「影は出来てますよ。向こうでも元気で。ほら、あなた達も挨拶なさい」

女王にそう言われ、双子が泣きながら彼女に抱き付いた。よっぽど好きだったのだろう。あさ子は困ったように微笑みながら、自分より高い位置にある二人の頭を撫でている。

「……お久しぶりです。女王様」

いきなり後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにはチェシャが立っていた。

チェシャは女王に挨拶をしつつも、無表情にあさ子を見つめていた。

そういえば、帽子屋が言っていた気がする。チェシャはあいつが好きだって。あれは本当なのだろうか。

「チェシャもありがとう。わざわざアリスを案内してくれて。」

「ベツに。たまたま偶然出くわしただけだし」

ツンデレかよ。そう思ったが口には出さなかった。

ていうかオレにはタカヤや秋丸に見えているわけだが、チェシャや三月ウサギは本来どんな姿をしているのだろう。

まあ、どうせ記憶を消されるのだから、知ったところで意味はないが。

「よし榛名、じゃあ行こう」

「いいのかよ?丁度いいし最後にメシ一緒に食えばいいじゃねーか」

「これ以上は帰りたくなくなっちゃうから」

そう言って、彼女がオレの手を握る。

「さて、そろそろ時間だ。まあ、その時間は今私が決めたんだけど。みんなさよなら。お元気で」

そしてまたもや、先程まであった筈の地面が消えた。浮遊感には、さすがにもうなれた。



2010/10/30
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -