双子の姉妹


テーブルの上を見渡してみると、不思議の国のアリスという前提で想像していたより、ずっと片付いているようだった。

なんとなく思ったのだが、ぐちゃぐちゃだったのは、さっきからよく聞く先代の頃のことだったのかもしれない。

とりあえずオレは、チェシャと帽子屋の二人が何やら言い争いをしているのをスルーして、テーブルの上を探検することにした。




「お兄ちゃんどうしたの?」

白いの花柄のティーカップの横を歩いていると、不意に後ろから声を掛けられた。

驚いて振り向くと、そこにはオレより小さな女の子が、眠そうな顔をして立っていた。見た目は小学生くらいだ。オレが元のサイズに戻ったら親指姫という感じだろう。

もちろん、さすがに親指程小さくはないが、印象としてはそんな感じだった。

「もしかしてオマエがねずみか?」

「うん。私が眠りねずみだけど。……もしかしてお兄ちゃん。黒いお姉ちゃんの連れてきたアリス?」

「めちゃくちゃ不本意だけどな。それがどうかしたのか?」

「やっぱり!じゃあお兄ちゃんが黒いお姉ちゃんを救いにきた勇者様なんだね!」

ぱあっと笑顔になって言った、ねずみの言葉の意味がいまいちよくわからず首を傾げる。勇者なんて設定、果たしてアリスにあっただろうか。

「勇者?」

「うん勇者様!」

「じゃあ、オマエの言う黒いお姉ちゃんとやらはオヒメサマか何かなのか?」

「んーん。お姉ちゃんはウサギだよ」

そこまで聞いたところで、オレはチェシャにつまみ上げられた。

そしてオレを自分の顔の前に持って行くと、話は聞きましたか。と、真顔でオレにたずねてくる。

「聞いたっつーか、聞かされたけど、なんだよ」

「そうですか。なら話は早い。」

「いや、早くねーよ、詳しく話せよ」

「詳しい話は後です。」

「いや、ベツに急がねーんだろ。話せっつの」

「ダメです」

「なんでだよ。」

「そろそろ双子が来ちゃいますから。そしたらあなた殺されちゃいますよ。」

そう言って、チェシャはオレを自分の肩の上に乗せた。いや、本当に意味がわからねーよ。凄く物騒な単語が聞こえたような気がしたが、気のせいだったことにしておこう。

「とりあえず、歩きながら話しますね」

「おう。」

「オレ達は今から女王の元へ向かいます」

「でもまだアイツは帰ってないんだろ?」

「双子からあなたを匿えるのは、双子の母である女王だけです。」

「つーかなんでオレがその双子に狙われてんだよ」

「決まってるじゃないですか。あなたが」

そこで、チェシャがいきなり言葉を切り、足を止めた。ホントに急なことだった為に、オレは肩からずり落ちそうになり、チェシャの襟にしがみついた。

「こんばんわ、子猫ちゃん」

「おはようございます、子猫ちゃん」

目の前には、赤いドレスと青いドレスをそれぞれ着て同じ顔をした女が二人ならんでいる。多分こいつらが、チェシャの言っていた双子だろう。いきなり見つかってるじゃねーか。と心の中ではそんなツッコミをいれたが、この空気はいちいち小さなことにツッコミをいれられるような、のほほんとした空気ではない。

「単刀直入に訊きますけど、あなたアリスを持っていますでしょ?」

「遠回しに訊きますけど、あなたがアリスと一緒にいるところを見たという目撃情報がありますの。そんなわけでアリスを知りませんこと?」

なんか鬱陶しい奴らだな。とチェシャの耳元で言ってやれば、チェシャは苦笑しながら、そうでしょう。と呟いた。

「その肩に乗ってるのがそうなんですね」

青い方がそう言った。単刀直入に訊いてきた方だ。

「その肩に乗ってるのがそうだと考えるのが自然だと思いますけれど、本当のところどうなんでしょう?それがアリスなのですか?」

そして赤い方が言った。

穏やかな口調、それでも凄く殺気だっているということがオレにだって伝わってくる。だがチェシャは、そんな二人に無防備に両手をひらひらと振りながら近付いていった。

「まあまあ、二人とも落ち着いて下さいよ」

「オイチェシャ、そんなんで大丈夫なのか?確かに凶器とかは見当たンねーけど」

「馴れ馴れしく呼ばないでもらえませんか?オレもあなたのことは嫌いなんですから。チェシャ猫さんって呼んで下さい」

「オマエってホントにうぜーよな」

タカヤの顔じゃなくてもこれはうざい。

というか、嫌いならばオレを差し出した方が早いのではないのだろうか。

チェシャが双子にあまりに無防備に近付いていくので、そのつもりなのではないかとも一瞬考えたが、チェシャはそのまま双子の間を通り抜けると、

おおきく振りかぶり、オレを思い切り放り投げた。

「テッメ、なにしやがんだコノヤロー!」

そしてチェシャは飛んでいくオレを見送るように眺め、そして何か呟いてから、双子と向き合う。任せましたよ。と言っていたようにもみえた。

なぜだかわからないが、ただ放り投げただけの癖に、チェシャの表情は何やらとても満足そうだった。

タカヤのあんな顔は初めて見たかもしれない。



2010/10/17
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