帽子屋と猫


「で、この森がなんだっつーんだよ」

「女王の森です。つまりゴール付近ですね。」

「ならいいじゃねーか。つまりあのオンナもこの辺にいるんだろ?」

「バカですかあなたは。あなたのやろうとしていることは、レベル1でラスボスのダンジョンに挑もうとしているようなものなんですよ?」

だからタカヤの顔でいうなタカヤの顔で。

というより、確かに正論ではあるかもしれないが、オレにはレベルなんてないのだから、いつこの森に来たところで同じような気もする。

「つーか、オマエなに?ついてくるわけ?」

「久々に女王に会うのも面白いですしね。ていうかあなた一人じゃ心細いでしょう」

「なんでオレが心細がらなきゃなんねーンだよ」

「じゃあ、オレは一人で女王のとこには行きますね。失礼します」

ああ、うぜー。こいつはつまり、右も左もわからないオレを置いていくと言っているわけだ。

断じて心細いわけではないが、広い森の中、小さいままの状態で案内がいないというのも非常に困る。コイツはつまりそれをわかってやっているのだろう。

「待てっつの」

「え?何故ですか?」

「オマエがいねーと困るんだよ」

「ほうほう。オレはあなたがいなくても困りませんが。あなたは一体何が困るんです?」

「……お願いします案内して下さい」

「そんな丁寧にいって下さらなくても良かったのに」

ああ、最悪だ。



それからタカヤのようなやつは、とりあえずあなたをみんなに紹介しましょう。などと気の長い事をいいながら、森を歩き出した。

オレはすぐにでもあのオンナがいるであろう女王の元へ行きたかったのだが、前を歩くコイツが言うには、あのオンナが扉を通ったときは、あの扉は海に繋がっていたらしく、まだしばらくあのオンナは女王の元へ辿り着けないらしい。

「まあ、なにせ海ですからね。かなりかかりますよ。黒いのは泳げませんし。しかもこの前、イナバノウサギとかってのを見習ったばかりに海や川の連中と喧嘩したばかりなんです。」

「あのオンナは相当暇なんだな。つーか見習うって、アイツ皮剥がれたかったのか?」

「さあ、自分ならうまくやれるとか言ってましたけど。まあ、女王が変わって平和主義になってからは大層暇そうでしたからね。」

しばらく歩くと、何を言っているかよくわからない歌声が聞こえ始めた。そして急に森がひらけたと思えば、そこにはデカいテーブルがおいてある。まあ、通常サイズのオレからみたら、テーブルも普通のサイズなのだろうが。

「久しぶりです帽子屋さん、最近どうですか?」

「やあチェシャ。久しぶりだね。最近はそうだな、確か、一昨日黒いのが来て、いや、一昨昨日だったかな?昨日かもしれないけど、うん、とにかくあれだ。誕生日じゃない日を祝って帰って行ったよ。いい加減誕生日を祝えって言ってるのにね。」

「黒いのは先代が好きでしたからね。」

「あはは、ところで今の歌どうだった?作詞・作曲ボク、それからも歌い手もボク、ちなみにタイトルもボクの名前なんだけど」

「オレにはあなたも先代も変わらないように思えますけどね。ところで三月ウサギはどこです?あと眠りねずみも」

「三月ウサギはその時あの子に連れて行かれたよ。ねずみはそこで寝てる」

目の前でわけのわからない話が展開されている。ウサギ?ねずみ?アリスにウサギは二匹も出ていただろうか。帽子屋はなんとなくわかるが。ねずみは聞いたことがあるようなないような。

タカヤのようなソイツは、今チェシャと呼ばれていた気がする。とにかくチェシャと呼ばれたソイツは、いつの間にか自分だけ元のサイズに戻って日常会話を繰り広げていた。

「ああ、そうだ」

ムカついたので、近くに落ちていた小枝でチェシャの足をつついてやると。チェシャは思い出したとでもいうようにオレを拾い上げて、テーブルの上においた。

「これ、黒いのが連れてきたアリスです。」

「ああ、そういえばそんなこと言って騒いでたっけな。」

「アリスとは思えない可愛げの無さですよね」

「いいんじゃないかな?あの子の好みって感じで。ていうかチェシャはあの子が好きだから、どんな子連れてきても嫌がるでしょ?」

「なにか言いましたか」

とりあえず、勝手にラブコメ始めないでくれと言ってやりたい。



2010/10/16
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