恋焦がれる
戦闘シーンを飛ばすのが私流。なんだけれど、飛ばしきれなかったというか。
とはいえ、もう、トドメ刺されるとこなんだけどね。
私さえ殺せれば、まあ多分、彼は満足するだろう。
謝罪は出来なかったけれど、これはこれでいいのかもしれない。
本当は、榛名と生きたかったんだけど、ジャックは許してくれそうにないし。
そうやって、終わりを確信して受け入れた時だった。
「お前、甘くなったな」
傍観していたマッドハッターの声。
締められる首。私は視線だけマッドハッターに送る。
「お前以外のお前なら、自分を殺したジャックが、次にハルナを標的にするだろうってことくらい気付いてたよ。」
だから、絶対諦めなかった。
凄い屈辱だ。それじゃ榛名のいる私より、他の私の方が榛名のことを考えてるみたいじゃないか。
私の方が榛名のことを知ってる筈なのに。榛名のこと、好きな、筈なのに。
「まあ、信頼してるっつーのかな、ハルナを」
でも、それじゃ大切なもんは守れねーよ。遠のく意識の中で、その声だけ聞こえる。力が入らない。無防備な身体に打ち込まれる拳。は、私の身体には届かなかった。
「そんでも、まーな、そんなハルナもお前を勝手に信用して待ってんだから、ちゃんと帰ってやれよ。オマエには説明の義務があんだから。謝るんだろ?」
マッドハッターが、そう言って軽くその拳を受け止めたのだ。
かっこ良かった。榛名より。
そう思っても仕方ない。今更思い出したのだが、私は一番かっこいい榛名を実際には見たことがないのだ。
記憶にはあっても、あれは実際ではないから。
だから、生きなきゃ。次の大会、見に行く約束してるんだった。
「さーてジャック。久々に手合わせすっか?可哀想だけど、イカサマ無しで真剣にやってやる」
「オマエがイカサマ無し、な、珍しいこともあるものだ」
それは怖いな。ジャックがそう言って、私の身体を投げ捨てた。
下が土で本当に良かった。城の床の大理石とかだったらと思うと恐怖である。
頭を思い切り打ったから。
「まあ、つーわけで残念だったなジャック。今回も、オレの勝ちだ」
こうやってマッドハッターは、いくつもの世界とジャックを救って来たんだなあ。
やはり、かっこいい。誰と比較をしなくても、そう見える絶対的さが彼にはある。
まあ、これはあくまでも子供じみた憧れだけどね。
あ、それでも好きなことには変わりないか。じゃあ、終わったらちゃんと伝えないと。ありがとう。大好きでした。あなたがいてくれて良かったって。
それで、ちゃんとバイバイしないと。私に私を味あわせるわけにはいかないし。榛名を返して貰わなきゃいけないし。
それに、結局彼は、私の知るマッドハッターと、同一ではあっても別人なのだから。
なんて全部全部言い訳で、私は彼が大好きだ。過去形になんて、したくないのに。
薄れゆく意識の中に見た彼の背中が、あまりにも遠くて、私は泣いた。
彼が背中を向けて守ってるのは、私だけじゃなくて、全部なのだ。
2011/05/18