再会の挨拶


えーと、どこから話すべきだろう。

マッドハッターを私が連れて帰ったところでいいかな。よし、じゃあそうしよう。



榛名とマッドハッターを交換して、私は私の世界に戻った。

問題の解決にどんなに時間がかかっても、戻るのはあの一時間後でいい。

そんな卑劣で卑怯で最低で最悪なことを考えながら、私は私の世界へと降り立った。

ていうか、そもそも私は大嘘をついたわけだし、ではまずはその嘘についてを説明しよう。



マッドハッターに頼みたかったことは一つ。ハートの女王の兄であるスペードのジャックの封印を解いてもらうことである。
ジャックの封印は、女王の封印と違い、封印した本人しか解けないようになっている。それがつまり、マッドハッターなわけなのだが。

ただ、ジャックも何もせずに封印されたわけではない。何もせずに理不尽に封印されるのなんて女王様くらいだ。私の知る限りでは。

ジャックは、私と榛名を憎んでいる。彼も白ウサギを大切にしていたから。そして彼は、直接的に危なかった。平気で私を殺そうとしてきた。

だからマッドハッターは、それん見かねて彼を封印したのだ。

うん、まあ。結局私が悪いわけだけど。

そんな封印をなぜ解いてもらう必要があるのか。

それには別に世界の破滅やらなんやらというような理由があるわけではなくて、ただ、私が個人的にそうしたいだけだった。

世界系の話がどうとかなんてのは嘘で。私は、私のせいで封印された彼をそのままにしておくのが許せなかっただけなのだ。

他の、榛名のいない私には、どうやらそれなりの正当な理由があったらしいが、この世界の理由はそれだった。

そんな勝手に、私はみんなを巻き込んでいるわけだ。


「そういやオマエ、ハルナと仲良くやってるわけ?」

封印の場所に向かう途中。黙っていたマッドハッターが不意に口を開いた。

せっかく久しぶりにマッドハッターと行動出来ているのに、何を話せば良いかわからず、黙々と歩くことしか出来ない私はヘタレだとか、そういうのはどうでもいい。

私はクソレでもなければ、ダメピでは無いわけだし。っと、そういう話はおいておいて。

「なに?いきなり」

話がどんどん変わっていく思考回路を修正して答えた。

すでに、なにをいきなり訊かれたか忘れたけど。

「いや、なんとなくだけど。なんつーか、ハルナがこんなことに付き合ってくれてるのに、お前は感謝してるわけ?」

してる。というのは半分嘘で。

ぶっちゃけ。付き合ってくれて当然だと思ってた。マッドハッターに思ってたように。

いや、あの頃よりはまだマシか。あの頃は私の気持ちは自分で察しろという今より俺様な考えを抱いていたような気がする。多分。

「アイツはオレじゃねーんだから、ワガママばっかだとその内愛想尽かされんぞ」

「わかってるよ」

わかってるだけじゃダメなこともわかってる。

でも、私はどうすればいいのかがわからないのだ。

感謝や謝罪の仕方を、教わってこなかったから。

「まあ、でも、大丈夫かもな。男はワガママでも惚れた女には弱いし」

「なんか言った?」

「なんにもー。」

「なら、いいけど」

無事に帰れたら、榛名に謝りに行こう。何も説明しなかったことと、あと嘘を吐いたことを。そしてありがとうも言わなければ。榛名がいてくれて、良かったって。

マッドハッターがいうのだからそうしなければ。

「着いた」

まあ、生きて帰れたらだけど。今度こそ殺されるかもしれない。

彼の封印を解いたらまず、身体を張った謝罪をしなければならないわけだし。


馬鹿でかい石碑に、マッドハッターが右手を添え、人間には理解出来ないであろう言語をブツブツと唱えはじめた。私でも半分以上意味がわからない。

わかった単語、解放のみ。

嫌な感じがする。寒気とかもするし。息が苦しい。風邪でもひいただろうか。なーんて。


石碑が割れた。綺麗に二つに。中から出てきたわりと美形な男に、私は苦い笑いをかける。

「久しぶりだな、頭でも沸いたか、この俺様の封印を解くとは」

「中二病ばっかで嫌になるよね。私を含めてだけど。」

お前、初期設定ではボク口調だったんだぜ。かっこ笑い。と言ってやりたい。

いや、ぶっちゃけ、本人を目の前にすると謝る気なくなるよね。この人の場合。

「あの、今日は、アナタにィッ……ぅぐっ、」

言い終わる前に殴られた。腹を。ぶち抜かれると思ったけれど、私の腹は意外と丈夫なようだ。かっこ笑……いや、笑えない。

「わかった。わかりましたよ。やっぱあなたには口だけじゃダメでしたね。王子様。一回叩きのめしてからじゃないと話きいてくれないのがあなたでした。」

王様になるのを自ら放棄した、妹想いの王子様。

「じゃ、少年漫画っぽい戦闘シーンといこうじゃないですか」



2011/05/08
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