共犯者の眼


お前は、会えないからとか関係なく、会えたってオレにはきっとそんなこと言えないよな。

だから、オレにお願いするのか。

オレが理解した三秒後。彼女はあっさりと要求を言葉にして、オレは何も言わずにそれを実行した。

椅子から少し腰を浮かせて、左手を彼女の後頭部に回す。さらさらとした黒い髪が太陽の熱を吸収しているようで、オレの左手はあたたかさに包まれる。

初めての接近戦だった。いや、遠回しな表現は照れているわけではなくて、後ろめたさからきているわけでもなくて。

オレにはこれをその名前で呼んでいいのかがわからないのだ。

「あのね、キスしてほしいの」

そう言った彼女に、それを提供出来たのかがわからない。

「ファーストキスの相手は、榛名がいいんだ」

それならきっと、アイツもそう思ってる。

そう思いながらしたそれは、果たして同一であっても別人な彼女に与えているものになるのだろうか。


何も言わなかったのではなく、言えなかっただけだと気が付いた。

それが終わっても口が開けないのだ。

「バカな榛名。断ってくれても構わなかったのに」

そしたらお前泣くだろ。

有無を言わないのがわかっていてお願いするのは、有無を言わせないのと同じだ。

「私は、卑怯者だから、すぐ榛名を迎えに来るよ。自分の寿命とか、マッドハッターの都合とか、あんまり気にしないだろうし。ね。」

彼女の後ろに数分前、急に現れた彼女は、不愉快そうな顔でオレを見ていた。

マッドハッターは御機嫌なようだった。何故かはわからないけれど。


お前も知ってた。オレは見てた。直前に目も合ってた。彼女は止めなかった。全員、共犯。

禍根はないはずなのに。微妙な空気。

「榛名。帰るよ」

「おー」

「マッドハッターじゃあね。迷惑掛けてごめん。」

「気にすんな。つーかお前も本当に大人になったよな。」

そう言って、マッドハッターが彼女の頭を撫でた。

それだけで嬉しそうに微笑む彼女。さっきまであんなに不愉快そうな顔をしていたのに。あ?不愉快かって?とんでもない。非常に愉快だ。

自分の、理不尽な気持ちの動きが、とても愉快だ。


オレも彼女に別れを告げて、戻ってきた彼女が差し出してくる手をとった。彼女は笑顔だ。しかし、握られた手はとても痛い。


またもや合図無しの落下。文句を言える雰囲気ではない。

というか、起きたらまたベッドの上なのだろうか?

そうだったらことの顛末は明日訊こう。覚えていれば、の話だが。

それより言わなければならないこともオレはすでに忘れてしまった。ことにした。

オレは、多分、彼女の事が



2011/05/01
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