その場所は
黒い穴を15分くらいかけて落ちていくと、そこは小さな部屋に繋がっていた。
一緒に落ちたねむりねずみを見てみれば、彼女はぐっすり眠ってしまっているようで、私は彼女を背負って連れて行くことにした。
その部屋には、それこそ、ねずみくらいでないと通れないような小さなドアが一つあるだけだったのだが、そんなこと私には関係ない。
ドアを足でノックしてやれば、ドアノブがこちらを見上げて驚いたような顔をした。そして、息を吸うようにして、ドアごと一気に大きくなる。そしてドアノブが一言言った。
「お帰り。黒ウサギ」
「ただいま。」
まだよくわかっていないのだが、多分これは夢ではないのだろう。思い出のようないつもの夢と違い、意識がやけにはっきりしていて先が読めない。
いつの間にかポケットに入っていた鍵をドアノブに突っ込み捻ると、カチャリと音がして、私がドアノブを掴む前に勝手にドアが開いた。
「げ、いきなりここか……」
「嫌だったか?ドアノブだって気を利かせてくれたのだろうにな。なにせお前は、なぜかオレにだけは別れの挨拶を言いに来なかったのだから。オレはとても悲しんだ。それはそれは悲しんだとも。おい、聴いてるのか黒すけ」
ドアの前で、石の上に座りながら煙管をふかしている男は、私が夢の中で一番苦手な男だった。多分、それは夢でない今回もかわらない。
「……まあいいや。ねずみが寝ちゃったから、芋虫、代わりに説明を頼むよ。わかりやすく簡潔にね」
「未だかつてこのオレがわかりにくい説明をしたことがあったろうか。いや、ない。あるわけがない。なぜなら」
「私はあなたのその面倒な喋り方が苦手なんだよ」
芋虫は変な前置きをしながらも、とりあえずは事情を説明してくれた。
夢の中で封印した女王が、どうやら目覚めてしまったらしい。誰が封印を解いたのかはわからないようだが、大体の検討はついた。
「ところで、道が全く思い出せないんだけど、お茶会までってどうやって行けばいいんだっけ?」
「なに、お前が行きたいと思って歩いていればいける。そう言い出したのはお前だろう。オレはお前がそう言い出したあの日を忘れたことがない。そうあの日は」
「……まあいいや、ありがとう。時間がないことにしたから急ぐね。バイバイ。」
しかし、女王の復活したとなると、新しい女王様は大丈夫なのだろうか。確か双子の母親だったろうか。なんとなく心配になってきた。
マッドハッターのところへ行けば、また何かわかるかもしれない。あいつは帽子屋の癖に音楽狂いだが、それ以外の面では常識人なのだ。
しばらく歩くと懐かしい歌声が聞こえてきて、歌声のする方へ歩いていけば、お茶会のテーブルの前に辿り着いた。
マッドハッターはまだ私に気付いていないようだ。私はねむりねずみをおろして彼女の頭を撫でてやる。優しい気持ちで頭を撫でれば、ねずみは小さくなるのである。
そして小さくなったねずみをテーブルの定位置に寝かせ、私はマッドハッターに話しかけた。
夢は、現実になりつつある。
2010/12/20