案外傍にいる人


「結局観てたんスか?」

「うん。めっちゃ観てたよ。スポーツ観戦嫌いじゃないんだ」

校門で待っていた彼女は、そう言って、オレにスポーツドリンクを差し出してきた。

「お疲れ様」

「こんなとこで待ってて寒くなかったッスか?」

「私が勝手に待ってただけだから。モデルくんの聞きたいことは、多分、イコールで私の話したいことだよ」

立ち話もなんだし、行こうか。と彼女が歩きだす。向かった先はファミレスで、オレは貰ったスポーツドリンクを一口飲んでから後を追いかけた。

鼻の頭は赤くなっているし、手袋をしていないその手は、多分とても冷たくなっているだろう。

彼女以外の女の子なら、すぐに手を繋ぐという選択肢をとれるのだが、それを選べないのは、変な噂がたっているからか、まだ距離を図り兼ねているからか。

時々、手をグーパーグーパーと動かす彼女に何もしてあげられないまま、ファミレスについた。

ファミレスに着く頃には、道中、たまに気を使うように、バスケの話題を振ってきてくれた彼女と、これからも友達でいたいと思っている自分に気付いていた。だから、ちゃんと聞きたい事があって、はっきりさせておきたい事がある。

女の子にそんな事を思うのは、初めてかもしれない。

「モデルくんはさ、なんでか考えたことある?」

注文が終わった後、順番にドリンクバーを取りに行って、それから彼女が話だした。

「なんでかって」

「私がなんで、あのお願いの相手をモデルくんにしたのか」

「見た目がいいから、とか?」

「まあ、それもあるんだけどね。一番はよくわからない信頼というか、私が勝手にモデルくんを信じてたんだ。噂とか、実際見ててとか、そういうのを総合して、モデルくんは信用できる人だと思った」

「いつもモデルの顔してるとかいうくせに?」

「だからさ、余計なこと言わないじゃない?」

「あー、」

彼女の言わんとしていることが、なんとなく理解出来てきた。

つまるところ、もし断られた際に、そのお願いを外部に漏らされるのが、彼女は嫌だったのだろう。

確かに、気まぐれで受けたあのお願いをオレがもし、気まぐれで断っていたとしても、オレはそれを誰かに言ったりはしなかったと思う。

彼女は、それから、先ほどとってきたジュースを一口飲んで、また話を続けた。

「あとまあ、モデルくんは、人にそう見られる為の技術があるんじゃないかと思った。とか、いろいろあるんだけど。一番がその、信用の部分なのね。で、他に聞きたいことは?」

「えーと、じゃあ、逆に、なんでオレが断らなかったかって、考えたことあるッスか?」

オレがそう言うと、彼女は少し驚いた顔をして、視線をテーブルの上に落とし、考え始めた。

「えーと、とりあえずその質問に対する返答は、ノーなわけだけれど、今からでも考えた方がいい?」

「じゃあ、一応考えてみて貰っていいッスか?」

「えーと、気まぐれなのは間違いないと思うんだけど。問題はその気まぐれを何故起こしたか、でしょ?」

「まあ、そうなるッスね」

断る必要が、あの時はとりあえず見当たらなかっただけだったと思う。

正直、理由なんてないわけなのだが、彼女の答えには興味があった。

「その日、暇だったから?」

「はい?」

「なんていうか、断る理由がなかった。みたいな。って、これじゃダメか。もっとなんかあるのかな」

「あ、いや」
図星を突かれた驚きというか、彼女でも、間違っているかもしれない答えを口にすることがあるということに、少し驚いた。

プライドが高い人は、間違っている可能性のある答えは口にしないものだ。

もしかしたら、彼女は思っているより、オレを自分の近くに置いているのかもしれない。

「佐倉っちって、オレのコト、どう思ってるんスか?」

「え? え、と。それさっきも答えたよね?」

「それとは違うニュアンスで、もっと単純に」

「つまりなに? じゃあ、例えば、そのニュアンスで言うと、モデルくんは私をどう思ってるの?」

「友達だと思ってるッス」

本日二度目の驚いた顔。しかし、その表情もすぐに変化した。

「ふ、あっはは、なにそれ、え? そんなニュアンスでいいの? あーじゃあ、うん。モデルくんはね、私にとって、共犯者かな。あはは、モデルくんはおかしいこときくね」

答えながらも、笑い続ける彼女。

ここまで楽しそうに笑っているのを見るのは初めてな気もするが、話すようになってから、まだ日も浅いので、それは仕方のないことかもしれない。

「共犯者ッスか?」

「んー、まあ、嘘ついたり、というか、最初から私、モデルくんに嘘つかせる目的で、つまり人を騙すのに協力してもらう為に話し掛けたわけじゃない? それを了承してくれた時点で、共犯者だって思ってた」

でも、そっかあ。友達かあ。と呟きながら、彼女は未だにクスクスと笑い続ける。

そんな彼女に、料理を運んできたウェイトレスが困った顔をしていたので、愛想良く料理が彼女のものであることを伝えてやる。

彼女は、そこでようやく料理の存在に気づき、笑うのをなんとか止めようとし始めた。

「あのね、モデルくん。いや、黄瀬くん」

「どうしたんスか、いきなり」

「私にとって、モデルくんって、共犯者で、だから、モデルくんってのはコードネームみたいなものでね」

どうしようもなく緩んだ顔で、頬杖をついて、彼女は言った。

「でもね、せっかくだもんね。私も黄瀬くんと友達になりたいな」




2013/09/28
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