彼女の見てる、彼の姿


土曜日。寝不足なのか、不機嫌そうな彼女が、相変わらずな制服に身を包み、校門に現れた。そろそろかと思い、昼休憩の間に迎えにきてみたのだが、どうやらどんぴしゃな様だった。

「モデルくんおはよ。てか、ああ、そっか、ユニフォームか」

「おはよッス。あ、そういえば、初めてッスよね、この格好見るのは」

「モデルくんのユニフォーム姿なんて、女子が邪魔で基本遠目じゃ見れないからね。迎えに来てもらって悪いね。ジャージ羽織ってるとはいえ、寒くない?」

迎えに行こうと思って気が付いたのだが、デートまでしたにも関わらず、オレは彼女のメアドすら知らない。

特に必要なわけでもないが、明日になっても呼び方すら変えてもらえないようなら、メアドを訊いて、他の方向からのアプローチも検討した方がいいかもしれない。

「まあ、ちょっと寒いッスけど、オレが呼んだんスから当然ッスよ、あ、メシは食べてきたッスか?」

「食べてない」

「え、なんでッスか」

「寝坊した」

「ちゃんと食べた方がいいッスよ? まだ時間あるから、コンビニとかで買ってきて食べたらどう」

「金ない」人の話を遮り、彼女はそういうと、続けて、「問題ないよ。試合に五時間も六時間もかからないでしょ」と言って、オレの前を歩き、体育館に向かう。

「あれ? 場所、わかるんスか?」

「自分の学校だよ? 広くたってわかるって。特にバスケ部の体育館は皆、いや女の子は皆わかると思うよ」

「でも、オレのユニフォーム姿観たこと無いって言ってたじゃないッスか」

「遠目じゃ見れないって言ったのは、つまり、行ったことくらいあるってこと、友達とね。松本、モデルくんのファンだから」

「ああ、そういえば」

「モデルくんは凄いよね。群がってくるだけって思ってる癖に、多分観にきてくれてる女の子をちゃんと見てる」

「え?」

「初めて見たッスか? じゃなく初めてッスよね。って確信持って言ってたでしょ。私が一度も来てないの、知ってんだろうなあって」

スタスタと先を歩く彼女の手首をつい、掴んで引き止めてしまった。

「なに?」

「いや、変な意味じゃなく、ぶっちゃけ、佐倉っちってオレのことどう思ってるんスか?」

「はい?」

「いや、モデルとかバカにしてるんだろうな。とかぼんやり思ってたんスけど、今の発言からして違うのかなとか思って」

「え? なんでバカにしてると思うの? 私は人様のお仕事をバカにするような人間ではないよ。ぶっちゃけ、売春婦すら立派な仕事だと思っている。私はその仕事を選ばないだけで」

「佐倉っちの言葉って、嘘がないけど、中身も無いッスよね。台詞なぞって喋ってるみたいに聞こえるッスよ」

「そんなの、君が一番言えないことでしょ。友達と話してるときすら、中身見せないでモデルの顔してる」

だから、モデルくんなのか。と、呼び方の意味を少しだけ理解した。

それが全てではないのかも知れないが。

「でもね、私はそれを悪いとは思わない。私は、全部話すことで相手から好きに距離とってもらうスタイルを昔から貫いてるけど、それで傷付いたり傷付けたりしても、懲りずにこんなんだから。人には何も言えないし、モデルくんがそれで楽なら良いと思う。まあ、だからと言って、というか、つまり、モデルくんの反応に怒ってるわけじゃないんだけど」

「あと、ずっと聞き損ねてたことがあるんスけど」

「多分、それはわかってるよ。最初から、あれ? 聞かなくていいんだーって思ってた。聞かないのは、私のことどうでもいいからだろうって思ってたよ」

知り合って、二週間とちょっと。

今日、試合を見てもらって、オレは何をしたかったんだろう。ふと、わからなくなる。

「じゃあ話しておこうかな、あのね、私が、黄瀬くんを――――」

「いた! 黄瀬! お前どこまで友達迎えに行ってんだよ!」

「あ、げ、笠松先輩……」

そう、今日は笠松先輩が来てくれている日だったのだ。

ウィンターカップの後、笠松先輩をはじめ、引退した先輩方は、スポーツ推薦などですぐに進路を決めて、今もわりと頻繁に部活に顔を出してくれていた。

「あー、私のんびり歩いて行くから。モデルくんはさっさと行きなよ。終わった後も、ご飯だけ食べて、一応待っててあげる。何か用事入ったら早めに連絡して、そしたらさっさと帰るからさ」

笠松先輩が、隣の佐倉っちの姿を確認してか、少し落ち着いた声でもう一度オレを呼んだ。

すみませんでした。と謝りながら、急いで体育館に向かう。

「置いてきていいのか? あの子だろ、試合どうしても近くで観てもらいたいとか言ってたの」

「いや、近くでっていうか、あの子寒いのが嫌だとか言ってたんで、せめてちゃんと中の方ならまだマシかなって思ってただけなんスけど」

「はあ!? そんならやっぱ呼んで来た方がいいだろ」

「いや、もう観てもらわなくても大丈夫なんで問題ないッス」

「? いいならちゃっちゃっと行くぞ、走れ」

そういえば、彼女は用事が出来たら連絡しろと言っていたが、メアドすら知らないオレにどうやって連絡をしろというのだろう。

一応聞きたいことも聞けず仕舞いなので、用事を作ることはないだろうが。

聞きたいことの中にメールアドレスも追加して、オレは体育館に向かうのだった。




2013/09/28
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