幸せのあり方と、その在り処
実に簡単な話である。
私は彼のプレーが、好きだし、性格も好きだし、話し方も、見た目も好きだ。
でも、やっぱり、それは恋じゃない。
だから、告白されてフった。悩まなかったわけじゃないけど、保留にするまでもなくフった。
申し訳ないとすら思わなかった。だって、つきあった方が傷付けることくらい、理解していたから。
「私もバカじゃないからさー、今まで通りでいれない? なんて、フった身で言わないけど、調子狂わないって言ったら嘘になるかな」
屋上にて、彼の姿が見えない位置で、つまり、ペントハウスの影から、そう話し掛ける。
これで、青峰が迷惑そうにするなら、ちゃんと離れてやろうと思っていた。
アレから、かれこれほぼ一カ月、流石にこれだけ話していないと、寂しい以上に、彼が何を考えているかわからないし、自分の立場もわからないので困る。
キチンと離れるにしても、キッカケが欲しい。そう思っての行動だった。
「ただ、まあ、話したくないなら、出来れば言って欲しいというか。寝てるかな。寝てるよね」
私は乙女じゃないから。ふってから自分の気持ちに気付いたなんてことはない。
最初からわかっていた。あくまでも、彼は私のナンバーワンだ。人間として。
例えば、他に好きな人が出来ても、青峰とその好きな人と天秤にかけたら、青峰を選ぶんじゃないかってくらい大切で、もう、半身みたいで。
だから、青峰も、そんな感じだと思っていた。告白だって、正直言うと、勘違いだろって今でも思う。
でも、違うなら、申し訳ないから、さっさと彼からちゃんと離れよう。
しかし、それはそうと、寝ているのでは話にならない。起こそうにも、正直久々過ぎて顔を見るのが怖いのだが、私は一体どうすればいいのだろう。
しばらく悩んでみるが、答えが出なかったので、仕方なく体育座りで途方にくれる。
日陰だが、今日は天気がよく、空気が気持ちいい。
そうしているうちに段々眠くなってきてしまったので、私は全てを忘れて眠ることにした。
そもそも、シリアスが似合わない性格をしているのだ。私は。
「いつまで寝てんだ」
目を開くと、夕日が目に映った。本気でいつまで寝るつもりだったんだろう、私は。
隣をみると、一カ月前みたいに青峰がいた。当たり前なので、動揺もしない。流石は半身。久々顔を見ても、実際にはやっぱりなんとも思わない。
「おはよ、青峰」
「早くねーだろ」
「あのねえ、私さ、自分が好きなんだよね」
「あん?」
「青峰もそのラインで好き。言うの卑怯かなって思ってたけど、やっぱ言っとくわ。腹の中にため込むの、ガラじゃないんだよね」
盛大な舌打ちを、一カ月振りに聞いた。
怒ってるわけじゃないことくらい、わかる。
夕日が、やけに眩しい。
「先に言っとくけど、彼女が出来たら、オレはオマエなんて一番だとは思わなくなるかんな、オマエはそれでいいわけ」
「いいの。なんだ、わかってんじゃん。私のこと。いいんだよ、それで。だから、ちょっとの間、我が儘につきあってくれれば、それでいいからさ」
男の子達が、拳と拳合わせてたり、そういうのが、ちょっとうらやましかったので、私も、拳を差し出してみたかったのだが、間違いなく虫の居所が悪いであろう今やるわけにはいかないので、とりあえず今回はやめておく。
彼が言うには、私達はこれからも仲のいい友達らしいし。
彼氏が出来たら、私もその彼を優先出来るくらいな、そんな友達をこれから目指して行こうと思う。
だから、わざわざ今拳を合わせる必要なんてないだろう。
「だから早くかわいー彼女作れよー」
痩せ我慢してくれていることに気付いてたって、それを指摘するのは、友達でいようって発言より酷いと思うから、私はしない。
「私も、早く彼氏作るからさー」
でも、やっぱり、その彼氏の隣より、この席の方が心地いいんだろう。その彼氏を優先したって、いつまでも。
そして、私は、思考をそこで止めておけば良かったと後悔した。
それにしても、これは間違いなく恋じゃないけれど、それなら恋ってなんなんだろう。
ほんの一瞬。そんなこと思って油断してたら、宣戦布告された。これは、多分一カ月遅れの。
屋上だっていうのに、野外だっていうのに、彼は堂々と、私を押し倒しやがったのだ。
「まァ、誰も諦めるなんて言ってねーけどな」
「騙したのか」
「やっぱオマエわかってねーよ、色々わかってるつもりかもしれねーけど、全然足りねーって」
「今思った。計り知れないバカだね、アンタ。時間の無駄だってのに」
「オレのかわいー彼女になるつもりは?」
「残念ながら、これっぽっちもないわ」
「オレの隣にいるつもりはあるんだろ。じゃ、コレくらい慣れろよ。付き合ってなくても、やるこたァやれんだぜ」
「コレくらいってなに、って、ちょいまっ」
首筋の、冬服を着ていようがよく見えるところにキスマークを付けられた。絆創膏なんて目立つもの貼るのも逆に恥ずかしいし、どうすんのこれ。ほんとどうすんの。
「オマエに、彼氏なんて作らせるつもりねーから。オレを除いてはだけどな」
「やってくれんじゃない」
我が儘に付き合うのはお互い様らしく、それも、ちょっとの間では済まないようだ。半身とは、表現したが、わかりきっているつもりなんてなかった。それでもここまで読めないとは。流石である。
コイツは、本当に気分で生きてるに違いない。
「じゃあ、しょうがない。私はアンタにかわいー彼女が出来るのを邪魔してあげる。もちろん私も含めてね」
それなら私も、気分で生きてやろーじゃないか。
2012/09/02