情とか、性癖とか


「あああ、死ぬ。もう死ぬ。すぐ死ぬ」

「今度はどうしたんスか」

「友達が、Twitterで私以外の子と仲良さそうに絡んでいる」

「いや、如月っち以外と絡まない方がおかしいと思うんスけど。如月っちってホント、重度のメンヘラッスよね」

「私以外に大好きとか言われてるし、言ってる……」

「聞いてないし……。ちなみに男ッスか?」

「や、女」

「変態」

「褒め言葉か。いや、ていうか、私如きが重度のメンヘラなんて恐れ多いよ。私なんてまだまだだよ」



如月しほ子は、一人ぼっちでも平気です。みたいな人間に見えるほど、友達が少ない。

人に気を使わない。空気を読まない。積極性もない。

その数少ない友達と遊んでる時の彼女の依存っぷりも、一見すると、普通ぐらいに見えるのだが、本当は違う事をオレは知っている。

彼女は表には基本的にはださないが、独占欲が強くて、嫉妬深い。本人に対しては言葉にしないし、他者にも殆ど愚痴らないが、しかし頭の中ではすごい事になっているのである。

何故オレがそんな彼女と友達になったのかと言えば、まあ、色々あったわけなのだが。

丁寧に説明させてもらえば、事の起こりは、彼女の友達がオレのことを好きになったことだった。その間、その子は会話の時オレの話しかしなくなり、その程度なら、自分がそういう事を話してもらえる一番の友達。ということで良かったらしいのだが、結局オレとその子が付き合った。オレはちゃんとその子が好きだったのでそれなりに大切にしていた。

ちなみに、その時、如月っちは如月っちで、彼氏がいた。

彼女の友達と付き合っている間は特に何も無かったし、彼女とオレの絡みは全くなかったのだが、その子とオレが別れて、彼女が彼氏と別れて、お互い珍しくぽっかり予定が空いて暇になった日、初めて友達として遊んでしまったのが、間違いだった。

オレは彼女の友達になってしまったのである。

なんとなく、友達を続けるのも面倒だから切ろうとしたのだが、というか、切らない理由なんて一つもなかったハズなのだが、彼女とオレの暇なタイミングというのがヤケに合ってしまい、ついつい何度か遊んでいたら、彼女がポロっと、恐ろしい本音をこぼしたのだった。

「黄瀬くんはいいよね友達いっぱいいて」

「はい?」

如月っちは、別に友達が欲しく無いわけではなかったらしい。しかし、趣味も話も合わない友達はいらないというのもまた本音らしく、それはちょっとわがままではないかと思った。

「私なんかさ、友達少ないしさ。ていうかね、私が親友だ! 一番の友達だ! って思ってても、そいつには別にもっと仲良い奴がいるのがデフォなんだよね。それにイラついたりさ。人間関係ってマジで面倒。というか私の性格が面倒。まあ、黄瀬くんには、親友なんて居そうにないけど。居ても、学校の子とかじゃないよね」

「それ、失礼くないッスか? ていうか、なんでそんな話オレにするンスか」

「黄瀬くんには、私の目の届く範囲に、親友がいないっぽくて、安心したから」

「……オレと如月さん、別に親友とかじゃないッスよね?」

「黄瀬くんにはそういうの求めてないから安心して、私、黄瀬くんはいい距離保てる楽な人って印象でしかないから」

今ので、面倒だと思って切るなら、それで良いよ。黄瀬くんとは合わなかっただけだ。と、彼女は言った。

面倒だと思われるのもわかっていて、友達が欲しいくせに、切られたいわけないのにそんなことを言う彼女に別になにか感じるところがあったわけではない。

ただ、価値観が違いすぎて、それを少し見ていたいと思っただけだった。

「とか言って、これで切らなかったら、親友認定ッスよね? ここまでの話は、あの子とか、彼氏にもしてたんじゃないッスか?」

「あー、したした。元カレにはしてないけど、あの子にはしたよ。あの子はあの子で、今、他の子と仲良くボーリングだけどな」

「……じゃあ、まあ。面倒なこと、直接言ってこないなら、別に親友でいいッスよ」

それからズルズルと一年。

直接は、たまには言うかもしれないが、そもそもほとんど言わない子だった如月っちは、それからかれこれ一年、それを守ってオレに何も言ってきてはいない。

今みたいに、他の子のことを言うことはあっても、オレのことで直接言うことはなかった。

そもそも、彼女は他の子のことを言う時でも、自分が悪くておかしいのを理解しているので、聞き流すだけでいいことが最近わかってきた。

一々、マジレスしていた頃は、面倒だったりもしたのだが、聞き流せる今は、彼女に大した面倒さは感じられない。

「やー、友達の友達って、やっぱマジで敵だよね。クッソ、こいつ、アカウント凍結されねーかな」

「そんな思考回路してんの如月っちくらいッスって」

「どっかのラノベにも書いてあったのになあ。アレにはホント共感したわ」

「まあ、そういう人もいるかもしれないッスけど、そんな極端じゃないと思うッスよ」

この間、一年も続いてる親友は初めてなんじゃないッスか? と、この前気まぐれで聞いてみたら、中学、高校では、キチンと親友を三年間続けていたらしく、一年じゃたんねーだろー。と返された。

そもそも、大学で出会った彼女とオレでは、その頃の親友達とは、遊ぶ頻度も、会う頻度も違うだろうし、年数だけでは比較できないかもしれない。

それでも、足らないという言葉は、少しムカついた。

付き合いの長さと仲の良さは、イコールでは結ばれずとも、密接に関係している。なんて言っていた彼女なので仕方ないかもしれないが。

「まあ、最近、ちょっとはその気持ちもわかるようになってきたッスけど」

「え?」

今一番仲が良いのは間違いなくオレなのだから、それでも足りないと言われたら、流石に少し妬いてしまうというものである。




2013/01/20
黄瀬と友達になりたい
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