私は馬鹿なのだ


「今回みたいに通り魔とか、あと事故とか、まあ、基本的にはそういう死に方だったよ。自殺もあったし、君に殺してって頼んだこともあったね。三十回記念に教えてあげる」

名前も知らない小さな女の子は、無邪気に水溜りで遊びながら、退屈そうに言った。

何しても退屈な癖に、人を退屈凌ぎに使うなんて、本当、最悪だ。気分がとても悪かった。



七日目。放課後の公園。秋丸くんは、今日は一緒にいて欲しいと言って、部活も行かずに私と二人で公園のベンチで軽く話をしていた。

軽くなんてことは無いか。結構長い時間、なんてことない会話を楽しんだ。秋丸くんは吹っ切れたような顔をしていた。今更だけど、私はその顔を以前も見たことがあったらしい。フラッシュバックなんて、それこそ今更いらないのに、私は思い出してしまう。

私が、自販機にジュースを買いに行こうとしたとき、秋丸くんにありがとうと言われた。ジュースのお礼かとも思った。でも違ったらしい。

最後に一緒にいてくれてありがとうって、私は何回も言われて来たのだ。

ジュースを買い終わり、私がベンチに戻ると、彼が赤い水溜りの上に倒れていて、その脇にその子が立っていた。

「君はいつも訊き忘れるんだ。ゲームオーバーしたときの、ペナルティーをね」

「アンタ誰? 秋丸くんに地獄を味合わせてる張本人とかなの?」

「それだけこの人が好きなのに、そのきっかけも君はずっと忘れてる。酷い話だ」

「アンタが出てきたせいで、この話すっごく安っぽいラノベみたいになったわ。ちょっと責任とってくれる?」

「メタ発言が好きだね、相変わらず。そんなことまで言えるのに、君はいつも同じことを言えずにいる。それで何回西中さんとこの人は死んだのかな」

何度だって後悔した。きっと西中さんの家ではもう彼女が死んでいて、私は明日から彼女が死んだ理由を探し出す。次は死ななくても良くなるように。その情報を次に伝えることなんて出来ないのに。

彼が避けた方法を避けてでも彼女を救えるように。他の方法を探そうとするのだ。そう、懺悔みたいに。言わなかったことを正当化したくて。でもいつも無駄だった。

私の一言で、きっと、もっと早く彼は救われたから。

ピチョン。女の子が水溜りの上を跳ねる。

「特別ボーナスあげようか。ここまで頑張ってきたし。私もそろそろコンプリートしたい」

「何それ」

「え? 君この人から何も訊いてないの?」

「嘘よ。知ってる。思い出した」

いつだったか、何回目だったかで、彼は私に話してくれた。

彼が何度もこれを繰り返してる理由を

一人のコレクターのくだらないコレクションの為に、コンプリートの手伝いをさせられているということを

「西中さんが死なないパターンの世界なんて、関係のないアンタが嬉しいものなの? 嘘くさくて堪らないんだけど」

「嬉しいよ。全然手に入らないというか、存在しないレア物だもん。それが手に入るなら嬉しいもんだって」

思い出したのはそれだけじゃない。

彼に協力し出して何回目だったかは忘れたけれど、結構最初の頃のこと。

濱村さんが吐いた、私と榛名くんが付き合っているという話によって、彼女が自殺したと勘違いしていた頃の話だ。

濱村さんが嘘を吐くのを止められなかった私は、秋丸くんと付き合っているフリをして、西中さんの自殺を防ごうとしたことがあった。

多分、秋丸くんが一度だけ彼女がいたことがある、と言ってたのは、私のことで。彼のした酷いことは、その私を残して死んだこと。

最初は付き合ってるフリだった。あの回は、西中さんもそれを祝福してくれて、自分の恋から少し離れていたからか、十日は保った気がする。

結局、彼女は死んでしまったけれど。これで終われるかもしれないって思った。

でも、私が彼に本気になってしまったから、彼を好きになってしまったから、終われなかった。

「そういえば、きっかけのあの回、彼女が死んだのは、私が悪かったんだったね」

「何。まだ懺悔したりないの?」

「彼女に恋愛相談なんかすべきじゃないの、知ってたのにね」

馬鹿だよ。私は。

「いいよ。ばかだったよ。ごめんね」

「話し聞かないよね、君は」

「これって、私を試すゲームだったんだね」

「それはちょっと自意識過剰な勘違いだけど、まあ、半分は正しくあるかな。そもそも君が素直になれば、記憶なんてあっという間に戻るしね」

「あっそ」

「次は素直になれるといいね。でも無理かな、だってほら、君って」

「で、なに。ボーナスって」

苛立たせる台詞や流れを全て遮り、私は次こそを最後にすべく、自己嫌悪に吐きそうになりながら、言葉を紡いだ。

全部思い出せばなんてことはない。私が悪かったのだ。全部。それを彼に言ってくれとお願いすべきだった。彼に判断を委ねるなんて、最高に酷い仕打ちじゃないか。

そう思ったのが何回目かはわからないけれど。

「ボーナスは次回のお楽しみ。すぐにあげるよ。ただまあ、ボーナスを活かすも殺すも自分次第だけどね」

「本当、性格悪いよね。アンタ」

私は後何回、友達が二人も死ぬところを見なければならないんだろう。



次の私も、自信満々に言うのだろうか。

いい加減、最後の一回を始めようか。と。



2013/09/08
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