原因などの考察


「なんで、西中さんは死んだの? それくらいは調べてあるんでしょ?」

「失恋。というか、現状を保存する為、かな」

「はい?」

「失恋する前に、幸せなままで人生を終わらせたかったんだと思う」

幸せなままで終わらせる。彼女のその選択が、どれだけの人間を不幸せにしたか。彼はそれを何回繰り返したのか。彼は、それだけ、不幸を感じてたハズで。

繰り返したことのない私に、彼の気持ちはよくわからなかったけれど、それでも。

私は、彼に幸せになってほしいと、そう思った。

今回が駄目でも。次の私は、彼の力になれるように、と。




二日目。何もしないと決めた以上、何もすることが無いので、私と秋丸くんはあまり会話をしなかった。三日目も同様に、私は西中さんや濱村さんと遊ぶ。そして、秋丸くんは榛名くんと部活する。

四日目になっても彼が答えを出せないものだから、私は仕方なく、ファミレスで再度作戦会議をすることにした。

「なんだっけ? こないだの説明のときは、そもそもなんでこんなことになってるかきかなかったけど、これのクリア条件は西中さんが自殺しないこと。でオッケーなの? 先に殺しちゃう。つまり、他殺にしちゃうってのは無し?


「嫌な気分にさせると嫌だから話さなかったけど、いつだったか越石さんが試してみてたよ」

「つまり、彼女が一週間以内に死なないこと。になるのかな」

「実は最長で一ヶ月保たせたことがある」

「何それ。クリア条件が明確じゃないってどうすりゃいいのよ」

「仕方ないから詳しく訊いてみたら、根本的な原因の回避が出来てないから一ヶ月後には結局自殺しちゃったわけで、だからその原因を解決しなきゃいけないらしい」

それ、誰に訊いたんだよ。そう思ったけれど、話を進めなきゃならないので一度はそれをスルーしておく。

私はウィンナーをフォークで突き刺しながら会話を続けた。

「でもさ。あの子は幸せなままで居たいから死んだんでしょ? じゃあなに? 彼女が幸せにならないようにしろって?」

「問題はそれなんだよね。そんなわけはないし、そんな条件じゃ彼女を一生見てることになる」

「一生見ててやりゃ良いじゃん。好きなんでしょ。と、言いたいところだけど。それはつまり彼女の考え方を根本から変えろってことだよね。っていうか、そもそもそんな考え方を彼女に教えたのは誰? 自分で思いついたの? あのこ」

「そもそもは越石さんもご存知のハルちゃんこと石神井先輩が言い出したらしいんだ。でもそれは既に言わないように手を打ってみたりして、それなのになんの効果もなかった」

「つまり、なんだ。一週間でその、偏ったものの考え方変えろと」

「自称カミサマが言うにはそういうことらしいね」

「軽く無理ゲーだね」

と、言いつつも。そんなことも無いよね。とちょっとだけ思った。普通に考えて、それだけ延長戦が許されているというなら、逆を言えば、勝てないことが決まった時点でゲームは終わる筈だ。野球で言えば×ゲームとでもいうのだろうか。後攻の勝ち越しが決まった時点で九回の裏は無い。それに、サッカーだって、相手に点さえ入ってれば、ロスタイムはともかく、延長はない。

つまり、最後の最後。たった一日でも、クリア出来るゲームのハズなのだ。

延長戦でも、いくらでも。こちらは多分、あちらに点を入れられる前に一点でも入れられたら勝てるわけだ。

この状態をゲームと例えるのは、少し残酷だが。

「とりあえず逆に訊くけど。最短で終わったのは? やっぱり一週間?」

「一日。これは越石さんが彼女を殺した時かな」

「あっそ。彼女が一週間を待たずに自殺した事は?」

「無いよ」

じゃあまあ、やっぱり確実な方法はあれなんだろうね。言わないけど。




「なんで言わなかったの」

「必要ない情報だと思ったし。聞かれなかったから」

「過去にも、何度も私こう言ってるじゃない。多分」

「今回の越石さんには、今、初めて言われた」

「屁理屈だよ」

目の前は真っ赤だ。

なんで、西中さんが死んで。その上、私は。




「ぶっちゃけアレが原因か」

六日目。大雨の日。

西中さんが榛名くんと相合傘をして帰っていた。幸せそうだった。

秋丸くんは、私の問い掛けに頷くと、アレを邪魔したこともあるんだよ。とだけ言った。彼は既に諦めているようだった。

彼女が、幸せは続かないと思ってる理由は、友達なので私もなんとなくわかっていた。

両親の離婚。彼女はそれを体験した事がある。

愛情は続かない。彼女がそう思っていてもおかしくはない。もしくは逆かもしれないが。

彼女の父親は、昔の女と浮気をしていたらしい。否、昔の女の方が本気だったらしい。それで彼女の母親を捨てた。

つまり。

「もしくは、これか」

T字路で西中さんと、別れたあと、榛名くんが一人の女の子に話し掛けた。

雨の公園でびしょ濡れになりながら野良猫を手懐け様としていた彼女は、野村さんという私達の同級生で、榛名くんの元カノだ。

二人は超がつくほどバカップルだった。

「おお、ミー太じゃないか。どうしたんだい?」

「いや、オマエなにしてんだよ」

見りゃあわかるってのに榛名くんはわざわざそう訊いた。

「いや、ね。ここの猫、二ヶ月掛かってようやく私に懐いてくれたんだよ。いや、たった二ヶ月でというべきかな。私は、猫の長になることにした。それが天職だと思う」

「相変わらず意味わかんねーことばっか言ってんな。あんま猫に迷惑掛けてんじゃねーぞ。つーか、他の猫の匂いつけて帰ったら、家の猫に嫌われんじゃねーの」

「痛いところを突かないでよ。痛くて死にそうかも。いや、寧ろ痛みで自分の生を実感したとも言えよう。でも私はこの痛みで死ぬんだよね。本末転倒とも違うけれどこの微妙な食い違い。なにやら素敵なハーモニーってね」

冗談みたいな中身のない言葉ばかり並べて笑う彼女が、私はあまり好きではない。

あの子は、それこそ人生をなんだと思っているんだろう。生を実感なんて、本当にした事があるんだろうか。

「野村さんにさ、協力をお願いしようって、越石さんが提案したこともあったよ」

「へえ。結果は? 協力してくれた?」

「まだ榛名のこと好きだから、って寧ろ邪魔された」

「人の命掛かってんのに、最悪だね」

「信じてなかったのかもしれないけど、あれから、ちょっと苦手だな。あの人」

苦手、と彼は言ったが。秋丸くんなら、もし例え自分が失恋しても誰かを助けるというのだろうか。

まあ、そんな答え、とっくに出ているんだけど。

「明日死んじゃうんだね。西中さん」

「うん。明日、学校から帰った後にね」

「どうしようか」

「もう、今回は諦めるよ」

「冷めてるなー。そりゃこれだけ繰り返せばそうか。って、違うよね。最後まで足掻く体力も無いんだよね、ごめんね。何もしてあげらんなくて」

「こっちこそごめんね」

私には、その謝罪の意味がわからなかった。

そして、その次の日は、私にとって、絶対に忘れられない日になる。いや、友達が死ぬんだから、当たり前なんだけど。

最後に答えを教えてあげれば良かったって凄く思った。彼と違って繰り返してないのに、なんで私は、彼女に対して諦めることが出来たんだろう。

簡単な話だ。私はちょっとだけ信じてなかった。

頭で理解しているつもりでも、実際は理解出来てなかったのだ。

自分の友達が、死ぬというのがどういうことなのかを




2012/10/25
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