恒例の作戦会議
「とりあえずどうするの?」
放課後。私は彼の部活が終わるのを待って、一緒にファミレスに来ていた。
「今まで色々試して来たんだど、正直そろそろ弾も尽きるかなってところでさ。だからとりあえず今までどんなことをして来たか話すよ」
「おっけ」
それから一時間以上、私は彼の半年間を聞き続けた。外はそもそも暗かったので、時間なんて気にしなかった。
繰り返して来た時間のフラッシュバックなんてものは無く、私は時折、軽くつまめるような料理を頼み、運ばれて来た料理を今度は口に運ぶという行為を繰り返す。
「あのさあ、一つだけ気づいた事があるって、今までも私に何回も言われてない?」
「え? 覚えてるの?」
「んーん。私の性格からしたらそうかなって。でも、その反応からしたら、私がこういう言い方をしたのは初めてか。じゃあきっとそろそろ終わらせられるよ」
通算三十回。それだけ繰り返して来たくせに彼がしなかった事。簡単に思いつく筈なのに、避けて通っていた事があった。
それは彼が繰り返している理由に直接関係あるし、まあ、思いついても使いたくない手なのはわかる。
だから、私は今回は本気でこの人を解放してあげるために、何もしてやらない事にした。
それは彼が気付いて自分で決めることだから。
「それを信じろっていうの? そんな馬鹿なこと」
「そういうと思った。でもオレには信じてもらう方法がないんだよ」
「じゃあ土下座して。そしたら知恵くらい貸してあげる」
秋丸恭平は平気で土下座なんてしなかった。
じゃあ今回も一人で頑張るよ。そう言った。
彼のいう事を信じるとしたら、何度私はこうやって彼の頼みを無下に断り、友達を見殺しにしたのだろう。罪悪感が私を襲う。
「嘘よ。信じてあげる」
彼は、この言葉を聞くために何度こんな女にお願いしたんだろう。それを想像するだけで、何かが痛んだ。
私には彼がなんで私をそんなに頼りたがるのかわからなかった。
後から思い返せばそれは彼の為でもあり、私の為でもあり、それだけがこの地獄から彼を救い出す唯一の方法だったのだ。
彼だって本当は、私になんて手を借りたくなかったに違いない。
私は、彼女が死んでからそんなことにようやく気が付いた。
彼女が居なくなった一人ぼっちの教室で泣きながら、失敗した今回をどうやって生き続けるのかを考えながら。
やり直せる彼に嫉妬しながら。
「あ、というか秋丸くんって、彼女いたことある?」
「なんでいきなり」
「過去の恋愛経験でもきいて、仲を深めておこうと思って。ほら、チームワークは大事だし」
何もしない癖に私はそう言った。心の中で、何がチームワークだ。と、毒づく。
「一度だけあるよ」
「あれ。意外。あるんだ」
少し失礼な返しだったかもしれない。
僅かに彼の顔が不機嫌そうな表情になったのを私は見逃さなかった。
「あ、いや、悪い意味ではないっていうか。いや、悪い意味以外何があるのか私にはわからないんだけど」
「いや、怒ってないし、気にしてないから良いよ。どちらかと言えば酷いのはオレだし」
「そう? ならいいけど」
困るなあ。この手のタイプはどうも苦手だ。
例えば、オレサマだったり、掴みどころがない変人だったり、とにもかくにも、私みたいな主体性がない割に頑固な奴は、主体性があって、勝手な人の方が話しやすかったりするのだ。
その点困った事に、彼も主体性が無い割に頑固な人なのだ。私と同じ。というか、私より主体性がないように思えるのは、きっと、彼の幼馴染みで私の友達の想い人である榛名くんのせいなんだと思う。
というわけで、私も何かあったら彼に頼ってやろう。折角コネが出来たわけだし。
「あ、ねえ、ところでそういえば秋丸くん」
「なに?」
「あの、あー、いや、なんでも無いや。えっと、今回の作戦なんだけどさ。今までちょっと私達焦り過ぎてた感じだから、ちょっとだけゆっくりしない?」
「え?」
「猶予は一週間あるんでしょ? それなら半分は普通に過ごそうよ。秋丸くんにも、少しはお休みが必要だよ」
まあ、ループ物としては、三十回程度の一週間は短い気がしなくもないが、それでも彼は疲れている。
それに何度も好きな子が死ぬところを見れば、誰だって気も滅入るだろう。
「それは、今回は捨てろってこと?」
「違うよ。半分だけ、私がさっき言ったことについて考えてみて」
「さっき言ったことって」
「一つだけ気づいた事。私が何に気付いたのか、秋丸くんが何に気がつかなきゃいけないのか」
榛名くんは、
「気付いてないわけ、本当はないんだけどね」
西中さんが、好きだったよね?
その台詞がポツンと頭に浮かんだ。ああ、これがフラッシュバックか。ループ物にありがちな。
私は、何度この問い掛けを続けたんだろう。
私は、彼のループを何故短いなんて判断出来たんだろう。
「わかった」
私はこうやって自分を不幸にした。そのことに気付いたのは彼にとっては最後の日、西中さんが死んだ日のことだった。
2012/08/01