……!


無理だ。なんというか、つまり、どうしても無理だ。周りは、オレが彼女と付き合っていると勘違いしていて、彼女は多分オレが好きだ。断言したっていい。

しかし、オレは無理なのである。彼女は男勝りで、付き合ってからも気楽に話せる関係でいることが出来ると思うし、どちらかと言えば、おどおどして話にならないような女子より、オレは彼女のような女子の方が好きだ。けれど、それでも彼女はダメなのである。

「なんでそこまで言うかなあ。私まだなんも言ってないじゃん。」

「だから、言われる前に釘さしたんだろ。」

大体、自意識カジョーすぎ。と彼女は笑うが、図星だというような、そんな表情が笑顔の中に見え隠れしている。

そういうところが無理なんだよ。と、心の中で思った。

そうやって、たまに見せる、彼女の"女"の表情がオレはたまらなく苦手で、そういう顔を見せられると、焦ってどうしていいかわからなくなる。知らない人間と話しているような気分になる。

それこそ、付き合えば、"女"である彼女に触れる時間は、当たり前だが、今よりずっと増えるだろう。それが、つまり無理なのだ。

「でさ、なんで無理なの?」

下から冗談めいた声で不服そうに問いかけてくる彼女の目は、女のそれだった。

頼むからやめてくれとは言えない。そんなこと言ったところで、彼女は彼女というだけあって、女であり女でしかないのである。

そんな彼女に女みたいな顔をするなというなんて、失礼極まりない。告白される前に、ふるという行為だけでも失礼だというのに、そんなこと言えるわけがない。

「言いたくない、か。私と居ても、もしかしてつまんない?」

哀しそうな、彼女はそんな眼をした。切なそうな顔で笑う彼女は、今までで一番女の表情をしていた。そんな顔をさせたくないのに。そう思いながら、そして漸く気付く。オレが彼女のその顔を見たくない、本当の理由に。

「つまらなくねーよ。寧ろ、」

オマエの隣は居心地が良いと、そう言ってしまって構わないだろうか。本当の理由。それは簡単な事だった。彼女がそういう表情を見せる時というのは、必ず彼女が哀しんでいる時で、オレはそれが見たくなかっただけだったのだ。

泣かせたくない一心で、オレは彼女を遠ざけようとしてしまった。その結果、彼女はまた泣きそうになっている。ああ、悪循環にも程がある。

「冗談だよ。榛名はつまらないと思ったら一緒に居てくんない奴だしね。」

寧ろ、の続きを聞く前に、彼女はそう言って、その話を終わらせた。そして、そういえばさ、と話題を変える。自分で話し出した癖に、オレがこの話題に困っていることに気がついたのだと思う。

こういう風に気を使ってくれている場面は他にもあった。それに今日初めて気が付いた。彼女のこういう女らしさは嫌じゃない。彼女の女らしさというのが嫌なのは、本当に泣かせたくないだけの事だったのである。

「あー、ちょっと待ってくんねー?」

「はい?なに?」

「さっきの取り消す。オレ多分、オマエン事好きだわ。スッゲー勘違いしてたのに今気付いた。」

「は?」

彼女の顔が赤い。多分オレもだ。彼女は小さな声で、バカじゃないの。と呟くと、ため息をついて、付き合っちゃおうか。となんて事でもないような声色で、軽く提案した。しかし、その間も顔は赤く染まったままなので、彼女の余裕のなさがありありとわかる。可愛すぎる。普段とのこういうギャップって反則じゃねーの?

「んじゃ、今日からオマエはオレの彼女な。」

「はいはい。」

「だからちゃんとオマエもオレに好きって言えよ。」

「……今度ね。今度。」



2011/01/03
無い頭で一生懸命考える榛名
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