酷いひと


「へー宮下先輩って大河先輩とつきあってたんだー。榛名失恋だねー。」

「っせーな!単なる憧れだったんだから失恋じゃねーよバカ!」

「またまたー。強がっちゃってー。」

明らかにアレは好きだったろうが。と思いながら、私は机に置いてある缶ジュースを手に取り、プシュリと蓋を開けた。あまり缶を見ずに開けたのだが、今の音は間違いなく炭酸。これは、炭酸が苦手な私への嫌がらせだ。

「強がってねーよ。」

「なら良いけどさ。つかこれ炭酸なんだけど。」

「今炭酸しかねーから我慢しろ。」

「やだよ。榛名コンビニで買ってきてよ。」

じゃオマエも来いよ。と着いてきてくれるような事をいう榛名は、今、失恋で相当調子が崩れているのだと思う。

だってあのオレサマ男が、オマエ一人で行けと言わないなんて明らかにおかしい。とりあえず私は、お言葉に甘えて、榛名にコンビニに着いてきて貰う事にした。





今日は月がなく、星が綺麗に瞬いている。それを見上げながら、私はチラリと榛名を見た。

いつもと変わらない横顔。

多分私は、秋丸くんに教えてもらわなければ、榛名が失恋したことになんて気付かなかった。わかりやすい奴の筈なのに、私には榛名の気持ちがあんまりわからないのだ。

人の気持ちを読み取るのが苦手なわけではなのに、よりによって、このわかりやすい榛名の事がわからないのである。

「榛名。」

「……あぁ?」

「ごめんね。」

「なんでだよ。意味わかんねー。キモチワリーな。」

いつの間にか零れていた言葉だった。気持ちに気付いてあげられなくてごめんね。でもなく、慰められなくてごめんね。とも違う。力になれなくてごめんね。は、もっと違って、私は、本当は。私が本当に謝らなくてはいけないのは。

「私ね。酷い奴なんだよ。」

「知ってる。今だって、コンビニにオレを付き合わせてっしな。」

「そうじゃなくてさ。」

「じゃあなんだよ。オマエ今日なんか変だぞ。」

確かに変だ。もしかすると榛名以上に。でもそんなこと、百も承知だ。自分の事だから、わかっている。今日、私は何かおかしい。理由は簡単。榛名が失恋したから。私はそれを"喜んでる"んだ。

「あのね、榛名。コンビニでアイス奢ってやるから聞いてくれる?」

「ベツに、聞いてやってもいーけど。なんだよ?」

「私さ、榛名が失恋してめちゃめちゃ喜んじゃったんだよね。」

「は?オマエ、」

榛名は立ち止まり、少し呆気に取られた顔をして、その後不機嫌そうな顔になって、ため息をついてから、私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。そして、一発だけ私の頭を軽く小突き、しゃーねーな。これで許してやる。と一言。やっぱり今日の榛名は変だ。

「榛名、変。」

「なんだよ。許して欲しくねーわけ?」

「じゃなくてさ。なんだろ、優しい?」

「オレはいつも優しいっつの。」

「嘘つきー。」

歩き始めた榛名の後を追い、また隣を歩き始める。隣をちらりと見てみるが、表情は未だ読めないまま。もしかしたら、私は彼の感情を察したくないのかもしれない。なんでも口で言って欲しいから、全部わからないふりをしているのかもしれない。

でも、私はそれでいい。彼の感情を共感出来たら、多分、凄く辛くなるから。榛名がどれくらい宮下先輩の事を好きだったのかに気付きたくはないし、大体、恋愛なんて少しくらい無神経でないと前には進めないのだ。だからこれくらいで丁度いい。



コンビニにつくと、榛名は早速アイスを選び出した。約束通り奢ってやると、オマエのそういうとこ結構好きだ。との事。思わず、笑ってしまった。酷い奴だ。私の気持ち知ったくせに。でもまあ、酷い私にはこれもまた丁度良いのかもしれない。



2010/12/31
去年の5月に書いたやつを修正しました。当時の思考回路が気になる。
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