深夜三時の逢引き/土方


嫌な夢を見た。

「土方さん。ちょっといいですか?」

「あァ?こんな夜中にどうした?」

それは寒い夜のことだった。

冷たい縁側をペタペタと歩いて、私はその部屋の前に立っている。

この襖の向こうにいる人に用があるからだ。どんな用なのかは、未だによくわかってないのだけれど。

「……?どうした?入れよ」

「いや、入らなくていいんです。襖も開けないで」

「どうしたんだよ」

「白髪頭の侍がね」

口から飛び出したその言葉に、私は自分で驚いた。あの侍がどうしたのだろう。どうしたのだっけ。

「憎たらしくて羨ましいんです」

なんでだかわからないが事実だ。

私がここに入隊したのは真選組が出来てしばらくしてからだった。

平和じゃないけど平和な毎日。毎日が変わらなかった。いくら摘発しようが攘夷浪士はいくらでもわいてでてくるし、そんな変わらない毎日が続いた。

私が何をしても真選組は変わらなかった。私の後から入隊した内村が何かしても、尾澤が何かしても、真選組は変わらなかった、のに。

「あの侍のせいで、真選組が変わってくのが、嫌なんです」

あの男は疫病神だ。白髪頭の侍のせいで、沖田隊長のお姉さんは死んだし、伊東さんは裏切った。

だってタイミングがおかしいじゃないか。あの男が真選組の前に現れてから、えいりあんが出るわ、デカい犬が街で暴れるわ、元々江戸は普通じゃなかったけど、あの男と出会ってから、ますます普通じゃなくなった。

「なにより、あなたが優しくなった」

笑わない人だとずっと思ってた。冗談が通じなくて、容赦がなくって、どこか壁があって、距離があって、冷たくて、怖い人だった。

だけど、本当は違った。

土方さんは優しく笑うし、気安く頭を撫でるし、自分で撫でた癖に気まずそうに照れるようなそんな可愛い人で、それに気付かせてくれたのはやはりあの

「お前にだけな」

不意に、襖が開いた。

こんな惨めな自分、見られたくなかったのに見られてしまった。

「万事屋のせいで、お前が女だって俺にバレちまったのはそんなに悪ィことか?」

「私は、そんなこと言ってるわけじゃ」

「認めたくはねェが、俺はその部分だけは奴に感謝してる」

そのせいで色々ごたごたはあったがな。と言って、土方さんが右手に持っていた煙草を口にくわえた。

決まっている。そしてその手で私を撫でるのだ。

「単なるヤキモチなんです。こないだも、土方さんがあの侍の仲良くしていたから」

「おー、お前がヤキモチなんて珍しいこともあるんだな。」

「そうなんです。らしくないんです。自分でも気持ち悪くって。だから襖、あけてほしくなかったのに」

案の定頭を撫でていた手が、急に私の腰に回された。抱き寄せるように私を部屋の中へ引きずり込んで、土方さんは襖を閉める。

「煙草、危ないです」

びっくりした私が辛うじてそう呟けば、彼は私から離れて机にあった灰皿に煙草を押し付けて消した。

「らしくねーんじゃねェ。お前も変わったんだよ」

「そんなこと」

「ああ確かに、お前をあの野郎に変えられたんだと思うと胸糞は悪ィな」

お互い様だと笑った顔が愛しくて、彼をこんな風に好きになれた部分だけはあの侍に感謝してもいいと思った。

そのせいで今日も夢見は悪いけれど、それでもいいかもしれない。起きている間は幸せだから。

「でも私を変えたのは、土方さんですよ?」

「それなら俺を変えたのだってお前だよ」



2010/12/26
久々過ぎる土方短編。書いたの一年以上振りかもしれないです。同人誌でミツバ編絡みな話読んで勢いで書きました。時系列は屯所禁煙前でお願いします。
ていうか、短編で元男装設定書くのは無茶過ぎたかもしれない。バレた時の話も追々書きたいけど面倒だからきっと書かない。こんな管理人ですみません。
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