ハッピーエンド/阿部
「隆也誕生日おめでとー!」
「なんでお前、そんなにテンション高いんだよ。」
「だって今は隆也と私同い年だよー!ん、まあ、私すぐにまた一個上になっちゃうけど。てかあれ?隆也、今先輩をお前呼ばわりしなかった?」
「気のせいでしょう。」
「嘘だ!」
嘘つきはどっちだ。とオレは先輩が買ってきたケーキを切り分けながら思った。
途中、誕生日なんだから大人しくしてなさい!と、まるで病人を相手にしているかのように、先輩が手を出してきたが、先輩に刃物を持たすことほど恐いことはないので、オレはそれをやんわりと断る。
「んで、いつまでうちにいるつもりですか。」
「へ?なんで?」
「どうせアイツと待ち合わせしてるんでしょう?」
「あー、うん。隆也よくわかったね!そうだなぁ……隆也がケーキ食べ終わるまで居てあげるよ!一人で食べるの寂しいでしょ?」
やはり。ということは、先輩がニコニコ嬉しそうにしてるのも、やはりオレの誕生日だからではないのだ。
アイツとの待ち合わせになんて行かせたくないのがオレの本音。わざとケーキをゆっくり食べてやろうかと思ったが、そんなことをしたら、アイツまでうちに来かねない。
とりあえず、平等に半分に切り分けたケーキを先輩とオレの皿に取り分ける。
それにしてもなんでホールケーキを買ってくるんだ。先輩は。ショートケーキを二つ買ってくれば良いことじゃないか。こんなの意図せずとも、中々食べ終わらないに決まっている。
「隆也。シュンちゃん呼んでくる?ちょっとこれ量が半端ないよね。」
「今更なにいってんですか。もう二等分にしちゃったのに、これを三等分に分け直せっていうんすか?」
「そうだ!アイツも呼んで四等分に…」
「却下。」
何良いこと思い付いたみたいに言ってんだ。嫌がらせか。まあ、先輩はアイツに会いたくて仕方ないんだろう。だって今日は、
「良いじゃんよー、今日は私達の記念日でもあるんだからさー」
先輩とアイツが、去年オレの目の前で付き合った、最悪な記念日でもあるのだから。
わかりましたよ。ならさっさと呼んでください。そう言うと、先輩は嬉しそうに携帯を取り出し、アイツに電話を掛け始める。
先輩はオレの先輩だったのに、いつからアイツの彼女になったのだろう。きっかけは間違いなくオレで、先輩に対してオレはずっといろんなことを失敗してきた。
目の前では先輩が、アイツに電話をして、憎まれ口を叩きながらも、頬をほんのり赤く染めている。とても幸せそうに。先輩にとってこれが成功だというのなら、オレは失敗でも良いのかもしれない。それほどにオレは先輩が好きだった。
だからきっと、これはハッピーエンドなのだと思う。
2010/12/23
去年書いた隆也を再録。来年こそは幸せなのを書き直したい。