爆弾を抱えて死にたい
榛名の住んでいるマンションと私の住んでいるマンションはとても近い。そしてうちのマンションは榛名の学校からの帰り道にある為、榛名はわりと頻繁にうちに遊びにくる。
「河口に告られたよ」
「おー」
私の部屋でのいつものやり取りだった。高校時代の友人である河口は会う度に私に告白するし、私はそれをたまに榛名に報告する。そして榛名は稀にそれに対して、どうでも良さそうに返事をしてくれた。
でも、初めてそれを報告した時ですら榛名は、私がどんな返事をしたのかを訊いてくれやしなかった。
「ねえ、付き合ってもいい?」
「勝手にすれば?なんで訊くンだよ」
「ああ、そうだね。私なんで訊いたんだろうね」
だって、榛名には好きな子がいるもんね。心の中でそう思ってから、私は携帯を取り出した。
メールを送る前に榛名の様子をうかがってみるが、彼は私の漫画を読むのに集中しているようで、私は、自分は本当にバカだと自嘲した。何を期待してるんだ。無駄な事だというのがわからないのか。
「私河口と付き合うね」
メールを送信。何を言われても、もう意味がない。
「そーか」
まあ、当然、榛名は何も言わないわけだが。
「本当、バカみたいだよね私」
河口は、それを微妙な顔で聞いてくれた。オレ、お前の彼氏なんだけどな。とだけ不愉快そうに言ったが、私をフったりはしなかった。
愛されるのはやはり嬉しくて。私は別に榛名じゃなくても大丈夫なのかもしれないと思った。そもそも、私は榛名を好きなのだろうか?本当はそんなに好きじゃなかったのかもしれない。
だってほら、河口の隣だって結構心地良いし、しばらく榛名の顔さえ見なければ、きっとあんな気持ちあっという間に忘れることが出来るだろう。
しかし、それでも榛名はうちに遊びにくるのだ。理由は簡単。彼はあの子に会いに来ているのである。
「榛名また来たの?」
「悪いかよ」
「いや、悪かないけど」
「ならそういう言い方すんなよ。つーかアイツは?」
と、言いながらうちにずかずかと上がってくる榛名をその"アイツ"が迎えに来た。女の子らしくて、そして狡猾で、そんな私の妹だ。
「榛名くんいらっしゃい」
「……よう」
にっこりと微笑む妹に、榛名は頬をほんのり赤く染めている。お似合いだなんて思える筈ない。私はそんなに性格がよくないのだ。
妹の部屋に入る直前、榛名がふとこちらを振り返る。なに?と聞いてみれば、榛名は私の心臓に爆弾を投下した。
「そういやお前、マジで河口と付き合ってンの?」
なんで今更気にするんだ。榛名の事だからただ気になっただけなのかもしれない。深い意味なんてなくて。
「あいつんコト好きなわけ?」
「榛名には、関係ないでしょ」
そんな言い方ねーだろ。と文句を言いながら、榛名が妹の部屋の中に消えた。いろいろ最悪だ。またあのバカに振り回されるなんて。
しかも、私はそんなバカ以外を好きになれるわけなかったらしい。どきりとした胸が、私にそれを訴えかけてきやがったのだ。
さて、半強制的にそんなことにに気付かされてしまった私は、これから一体どうすればいいのだろう。
閉まったドアに向かって舌を出す。不毛だった。
2010/12/16