青い鳥は家にいた


目が覚めると、私は私自身の自宅のベッドの上で寝ていた。

帰ってこれたのか。と部屋に並べてある漫画を確認する。間違いなくおお振りも並べてあって安心した。

榛名といた痕跡は何一つない。あれは単なる夢だったのかもしれない。

なんとなくムカついて、紙飛行機でも作って外に飛ばして環境破壊でもしてやろうと机の上に放置していた大量のレシートに手を伸ばす。

そこで部屋の異変に気付いた。写真が、部屋に飾って置いた彼の写真がなくなっている。

「ママー。私の写真立てしらなーい?」

「それアンタが昨日自分で落として割ってたじゃないの。ほらこれ」

そう言いながら、母はその残骸の入った袋を持ってきてくれた。中に写真は入っていない。

「あれ?中身は?」

「中身はアンタ、自分でとりあえずとか言ってポケット突っ込んでたじゃない。あ。まさかそのまま洗濯機に入れてないでしょうねえ」

「ええー、ポケットくらい確認してよ。」

そう言いながら、念のためポケットを探ってみる。紙が、片面が凄くツルツルした紙が手に触れた。

「あ、あった。」

「それなら良かった。ていうかママ任せにしないでちゃんと洗濯物のポケットは確認しなさいよ」

そう言って母が部屋から出て行く。背中を見送りつつ、私はポケットから写真を取り出した。

「あれ?違うじゃんこれ」

それは、あちらの私の部屋に飾ってあった写真だった。例の幸せそうなツーショットの写真である。

間違いない痕跡に、私は舌打ちをした。私は、ああは思ったが、ベツに痕跡が欲しかったわけではないのである。出来たら夢だと思いたかったのに。

そのとき、不意に、呼び鈴がなり、母がバタバタと玄関へ向かう音が聞こえた。嫌な予感がした。

「千紗子ー。友達ー。」

「はいはーい」

玄関まで行くと、そこには元カレの姿があった。この間まで彼氏来たよーと言われていたのに今は友達だってよ。と心の中で笑いながら、そこまで久しぶりでもないのに、久しぶり。と言葉を掛けた。

「は?昨日会ったろ。何言ってンだよ」

昨日会ったって、それはつまり、私じゃない私と、ということだろう。

あのバカなにしてんだ。と、自分が榛名にした事は棚に上げて、そんな事を思った。

「ああ、そういやそうだね。つか、なんの用?」

「オマエが昨日、明日もうちに来いっつったんだろ」

私に覚えはないが、多分私はそう言ったのだろう。ただ、覚えがない分、その偉そうな口振りにイライラした。

「あー私ら昨日なんの話したっけ?」

「あの会話内容忘れるなんてホントありえねー」

「ごめんごめん。で、なんの話したっけ?」

彼のイライラが頂点に達したのがわかった。玄関に、昨日と同じようにサンダルを引っ掛けて立っていた私は、強引に外に引きずり出される。

腕が痛い。しかし、この痛みを私は昨日も感じた気がする。

しかし昨日はこんなにムカつかなかった。一体何が昨日と違うというのだろう。

「も、……たい。」

「ああ?」

「痛いっつってんの!バカ元希!」

というか、そもそも私はこんなヤツどうでも良かったのだ。性格と見た目がちょっと榛名と似てて、名前が同じだったから付き合っただけで、性格と見た目と名前以外に好きなところなんてなかったのだから。

近所のコンビニの前で、元希の腕を振りほどく。逆ギレされるかと思ったらそうでもなくて、何故だか元希は納得したような顔をしていた。

「なに、どうしたの」

「あ?いや、やっぱおかしかったよな、昨日までのオマエ」

「なんで」

「なんつーか、こうやって暴れなかったし。こう、他人行儀っつーか。素直?」

そこで漸く私ははっとした。なるほど。多分、私の榛名に対する態度は間違っていたのだろう。

そして多分、私も間違えていたのだ。元希に対する態度を

「昨日まではちょっといろいろあったの」

「あっそ。で、なんでオレンことフったわけ?」

「はい?」

「昨日、自分で明日言うっつってたろ。」

全く、そういえば私はこうやって確認しないと愛されてることに気付かないのだった。

言わなければならないことがわかってはいても、現実の私ってやつはやっぱり素直になれなくて、向こうの私もきっと同じだろうと心の中で苦笑した。

「私さ、元希をなんでフったのかなんてわからないよ」

「は?昨日と同」

「だから、私達やり直しませんか」

向こうの世界には確かに元カレか存在したじゃないか。それでも彼だけしっくりこなかったのは、代わりだ代わりだと思いつつ、結局私が、向こうの世界の榛名より、現実の元希の方が好きだったからなのだろう。

だってあんなに虚しかったのに、こいつに気持ちを伝えただけでこんなにも満たされている。

虚しかったのは、あっちの世界にはこのバカがいなかったからだ。あっちの世界のみんなが私にとって偽物だったからだ。私は私の本物を求めていた。

「ったく、こんだけオレを悩ませといてその一言だけかよ」

「ごめんごめん」

「相変わらずかわいくねー」

「それでも良いからさ。とりあえずアレだ。写真撮らない?ほら、ツーショットのヤツ持ってないじゃん私ら」

現実なんて相変わらず嫌いだけれど、代わりでない彼がいるのなら、まだ好きになれるかもしれない。



2010/12/12
結局なんなんだって言うような話。つまりは現実を大切にしましょう?簡単に言えばタイトル通りです
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