地下室にて監禁


世の中は毒素が溢れている。致死性の高い戯言や、愛情の無い嘯き、劣悪な哲学、即死の宗教、暗黒の概念、低俗な血脈、無意味な利益、悪徳の正義。

私達は皆、それに気付かないような顔をして、他人に真実を強いながら、嘘ばかりを吐いて生きている。腐敗を重ねた猛毒に身を委ね、自らも毒を振り撒きながら。

それに気付いた者から毒に犯され、どうにかしようともがいた者から壊されていく。

それこそ劣悪な哲学だと彼は笑った。何を言っている?壊れたのは、君じゃないか。





妹の方には大切に育てていた兎がいた。私はその兎を見殺しにした。彼女がそれを殺してしまうであろう事は容易に想像が出来たというのに、私は彼女を止める事をしなかった。

その行為がどれ程罪深い事であるかを知らなかった訳ではない。止めなかったのはただの好奇心。血に呪われた彼女が、その兎を殺してしまった時に、どんな反応を見せるのかが、ただただ、気になった。

本当に罪深いのは私だというのに彼女は嘆き悲しみ、自らを責めた。罪悪感は感じなかった。


兄の方は、呪われた血に囚われていた。理解が異常に早く、早々と世界の真実を知り、毒に犯され、砕けるように壊れて行った。私は助けなかった。助ける方法等五万と有ったにも関わらず、その様を見届けた。暫くして、彼は実の父親の腕をふっとばし、家を出ていった。


そして私は漸く気付いた。世の中の毒素に。それを孕むのは私達のような生き物だということに。

それから私は壊した物を直す事に必死になった。それらは直す端から壊れていき段々と取り返しがつかない事になっていった。だから怖くなって逃げ出した。

そんな風に放って置いたら、彼女はいつのまにか、自分で修復をすることを学んでいた。でも、私の手の届く所からは居なくなっていた。

「私や君と違い、彼女は直すという事を知っていたのだと思う。」

「神楽は弱いからね。」

「強い分、君は自己を修復出来なかったんだね。痛くないのかな?その傷は。」

「心配なら傍にいてくれよ。あんたが傍に居ると安定するんだ。欠けた所が、ジグソーパズルみたいにピタリとはまる。」

それを聞いて、彼にも多少の自己再生能力があった事に気付き、安堵した。誰かを求めるなんて弱さを彼が思い出してくれた事が嬉しかった。

欠落した物が見つかった時に、彼は私を求めなくなるかもしれない。欠けた所を埋めるためにしか私はいない。充分だ。壊した物を直す責任が取れれば私はそれでいい。

それは愛なのか逢なのか、それとも哀なのか、定かではないが、問われれば私は曖昧に相槌を打ち。君の気が済む迄、ここに居よう。

傷付けてしまわぬように。ひび割れを隠すように。

「ツケはいつか払わなければならない。私には君の申し出を断る術がない。」

「解釈に間違いがあるな。あんたが俺の傍に居たいんだろう?その為に俺は壊れたんだから。そこはきちんと自覚して貰わないと困るよ。」

ニッコリと笑った彼に見惚れた自分がいた。壊れたモノの魅力に初めて気が付いた。ガラスの破片がキラキラと美しく煌めくように、壊れた彼の笑顔は、歪に揺めき耀く。

「あんたは、俺に惚れてるんだよ。とてつもなく歪んだ形で。」

抜け出せない所まで毒に犯されていたのは私の方で、彼は毒に犯されたわけではなく、自ら計画的に壊れただけ。彼は毒そのものだったのだ。

「俺もあんたに惚れてるんだよ。どうしようもなく、歪んだ形でね。」



2010/12/09
これは去年の4月に書いた話です。中二爆発過ぎますね。当時の思考回路が気になります。
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