嘘を疲れる
「は?どういうこと?」
困惑するような顔で言った彼女は、多分本当に俺を愛してくれていたのだと思う。
他人には気を使わない癖に、オレにはいつも気を使ってくれていたし、オレの為なら主張を曲げたこともある。それでも芯は強くて、オレの好きな彼女らしさというのは、付き合ってる間にもきちんと存在していたのだ。
つまりオレは、付き合って彼女が変わったから嫌になったというわけではない。
「だから、お前と別れるっつったんだよ」
「だから何で?って訊いてんの」
「なんつーか、冷めた?」
「ああ、そう。私も」
やはり彼女は意地を張る。困惑した表情を強引に無表情に変えて、自分のプライドを守るように、そして自分の気持ちを捨ててしまうようにそうやって嘘を吐く。
しかし、はっきり別れるのが嫌だと言ってくれたら、オレはもう一度彼女を抱き締めただろうか。キスをしただろうか。
別れたくなった理由は気持ちの確認等ではなくて、言った通り冷めたからだ。ならば彼女が素直に言ったところで同じなのではないだろうか。
「ん、じゃあね、私帰るわ榛名」
結局彼女は一度も下の名前でオレを呼ばなかった。オレはいつも彼女を下の名で呼んでいたというのに。
照れてもそこは曲げるべきとこだろうと思っていたのだが、彼女が妙なところで頑固なのはオレも知っていたので、最近はそんな事も指摘することがなかった。
なるほど。オレ達の関係はそうやって冷めていったのだろう。
さっさと公園から出るように歩き出した彼女の背中をオレは引き止めもせず女々しく見送る。
どうせ彼女は泣かない。見ていても泣いてはくれない。泣きそうな顔をするだけで、泣くまでにはいたらない。わかっているのにオレはここから動けない。
「……んで、別れたくないって言わねーんだよ」
言われたところで何が変わるわけでもないと自分で思っていたのにオレは呟いた。
彼女だけでなく、オレも自分に嘘を吐いていたのか。と、今更気付く。
オレはただ単純に彼女に別れたくないと言って欲しかっただけだったんだ。
2010/11/21
短くてすみません。
私に気力があれば元サヤまでをシリーズに移して書きますが、多分気力がないので無理です。