血塗れになって死亡/クレア


「知ってる?クレアに婚約者が出来たって。しかも名前がフェリックスなんたらに変わったらしいよ。意味わかんないよね」

蜂の巣にて。最近出来た友人にそんな話をすれば、いや、クレアって誰だよ。みたいな顔をされた。うん。ごもっともだ。なにせ彼女はクレアを知らないのだから。

「クレアってのは、世界一強くてバカな殺し屋なんだけどね」

「へえ、バカなの」

「気に入った女にいきなりプロポーズすんの。」

「そりゃバカねえ」

「まあ、あんたが餌食になる前でよかったよ。あいつ私にはプロポーズしたことないのに、私の友達には必ずプロポーズすんだもん。」

昔は私の気がひきたいとかだったらいいとも思ってたけど、あのバカがそんな遠回しなことするわけがないと、やはり昔、さっさと気付いた。

クレアはつまり私だけはアウトオブ眼中だったわけだ。まあ別に構いやしないが。

「よう、千紗子じゃないか。久しぶりだな。」

「げ、クレア」

「クレアは死んだ。俺は──」

「わかったから、キングオブ自己中さん」

へえ、彼がその彼なの。と友人が楽しそうに目を細める。こいつはこいつで大概性格が悪いよなあと思いながら、私は頼んだまま一度も口に運ばなかった酒に漸く口をつけた。

「ああ、そういや、婚約者とはうまくやってんの?」

「心配されなくとも会う度に愛を語らってる。そうだ。今度お前にも紹介してやろう。」

「うん。結構です。」

ていうか会う度って、会う頻度によってはウザすぎるだろ。敢えてそこには突っ込まなかったが、毎日とかだったら婚約者さんが少し可哀想だと思った。こいつの相手はかなり疲れるだろうし。

しばらく会話をして、クレアはじゃあな。と言って店を出て行った。私は背中を見送りながら、もう残り少なくなった酒を一気に飲み干し、ため息を吐く。

「ったく。なにしに来たんだか」

「彼、あなたに会いにきたんじゃないの?」

その言葉に返事をせずにいれば、性格の悪い友人はにやにやと笑いながらこう続けた。

「それだけで十分なんて、どこの乙女よ。あなたらしくもない」

「お言葉だけど、別に私はそれだけで十分なんて思ってないから。」

「じゃあなに?」

「私は、あのバカが自分の世界の中で幸せでいてくれたら十分なの。」

我ながら乙女だとは思う。私こそ世界一のバカなのかもしれない。

「まあ、あいつの婚約者さんと代われたら、十二分ではありますがね」



2010/11/16
初めて書いたクレアなのでなんか変かもしれません。
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