君と私の関係
そしてあっという間に退院である。アレから検査をしたりと数日入院していたわけだが、異常はなかったらしく、私は晴れて自由の身となった。
自宅の場所は変わっていたが、父も母も変わっておらず、兄弟も元気にしていた。見舞いに来た友人も、ほとんどが現実で私の友達だった奴らで、ここまで揃っているのならずっと此処にいることになっても構わないのにと思った。
「ああ、そういや年齢は若返ったんだっけ。見た目じゃあんまわからん気もするけど」
そう独り言を言いながら、武蔵野第一高校の女子制服を着た自分を自室の姿見に映す。
久々の高校生ライフを満喫出来るというのは悪くないかも知れない。ただ、不思議なことに、私が昔付き合っていた彼氏というのは、この世界には存在しないらしく、それだけは少し物足りないが。
「千紗子ー榛名が迎えにきたよー」
「はーい」
しかし、この世界にも代わりとでもいうような元カレは存在するようで、聞いた話によると、榛名と私は一週間と少し前に別れたらしいのだ。
微妙な気分だった。だって私は今でも、榛名のことが大好きなのだから。
「ったく、病み上がりだからってわざわざオレが迎えにきてやったっつのに、どんだけ待たせンだよ」
「煩い。」
私の榛名への対応は間違っていないようで、榛名は小さな声で相変わらず可愛くねー。と呟くと、私の鞄を勝手に取り上げ、自分の自転車の前かごに乗せる。
そして、自分のエナメルバックを斜め掛けにして自転車に跨ると、私に後ろに乗れと命令。有り難いことなので命令文には文句を言わずに私は後ろの荷台に跨った。
「重っ」
「うざっ」
暫く自転車を走らせると、砂利の道に差し掛かった。かなり揺れるため、サドルを掴んでいるだけではバランスを保てなくなり、思わず榛名の制服を掴んでしまう。
夢小説ならうっとりするようなシチュエーションだが、あくまでも私と彼は元カレと元カノなのだ。気まずさしか残らない。
そのまま、榛名は暫く無言でいたが、いきなり自転車を止めた。
そして私に今度は降りろと命令し、私が降りた事を確認すると自分も自転車から降り、私と向き合うように立った。
「どうしたの?」
「なんつーか、オマエさ。」
「なに?」
「なんでいきなりオレんことフったわけ?」
私に聞かれてもそんなことわかるわけがないのに、事情を知らない榛名はそう私に訊いた。
私がなんでこんな目に遭わなきゃならないんだろう。なんで好きな人にフった理由を訊かれなきゃならないんだ。
「それは」
「訊こうとしたら池に落ちるしよ。そこまでして逃げるか普通。」
なんとなく榛名の事情は飲み込めた。フられた理由を訊こうとして、逃げられて、私が落ちて、榛名が落としたことにされてしまったわけだ。まあ、みんな本当のことがわかっていて彼をからかっているのだろうけど。
「えーと、わかんない」
「は?」
「私、なんで榛名をフったかなんてわからないよ。だって」
くだらないこととはいえ、榛名の事情を知ってしまったことによってか、私はうっかり自分の事情まで話してしまいそうになったが、遠くから聞こえた学校のチャイムの音で思い止まる。
これは、多分伝えない方がいいことなのだ。彼らの世界を壊してはいけない。
「だって、なんだよ?」
「その前に榛名学校!」
「お前サボリ常習犯だろ。」
「今日ばっかりは時間通りいかなきゃ心配されるから!」
そう言って榛名を急かして学校へ向かう。
榛名の後ろに座っている間、私はずっと考えていた。私が榛名をフった理由を。
私の彼への態度が間違いではないというのなら、私の中に答えはある筈だ。でないと私と私の態度が同じというのはおかしいだろう。
それにしても本当に、私は何故榛名をフったのだろう。
私はこんなにも榛名が好きなのに。
2010/11/14