網にかかる心/臨也


「甘楽って変な名前ですよね。というか、まあ、あなたは本名が一番変ですけど。」

私がそう言うと、彼は、「名は体を表すとはよく言ったものだよね。」と笑った。

確かに、平和島くんに比べ、彼の名前というのは、きちんと"彼"を表してくれていると思う。でも、まあ、変な名前だということに変わりはないのだが。

「それに、私も、ネットとかで名前多い方ですけど。」

「なに?」

「一体、臨也さんって、捨てハン含めていくつ名前持ってるんですか?少なくとも私よりは多いですよね?」

「捨てハンは数えるもんじゃないよ。」

臨也さんは、楽しそうに、いつもの笑みを浮かべた。確かに、捨てハンはあくまでも捨てる為のハンドルネームなわけで、それを含めて名前の数を数えるというのはおかしいのかもしれない。

「大体、つけた捨てハンの数なんていちいち覚えてないよ」

「そりゃ、そうですよね。臨也さんですもんね。」

情報屋である彼が、捨てる為だけにつけた捨てハンをわざわざ覚えているわけがない。寧ろ、よく彼が私なんかを覚えてくれているな。とすら思うくらいだ。

「話が変わりますけど、臨也さんってモテますよねえ。変な子ばっかに。モテるってか信仰されてますよね。神にでもなるつもりですか。」

「アハハ、なれるならなりたいもんだよ。なったところで何がどうなるとも思わないけどね。」

「私は変じゃないのになんで臨也さんなんかに惹かれるんでしょうね。」

「変なんじゃない?」

「絶対にオンリーワンになれないのに。辛いだけなのに。あなたに愛される人間という人間を虐殺したいくらいだけど、それじゃ臨也さん寂しいだろうし、無理ですよね。そうだ臨也さん、私に何かしてほしいことあります?せっかくのオフ会ですもの。なにか言うこときいてあげますよ。」

「じゃあとりあえずシズちゃんの話はやめてくれないかな。」

話題が最初に戻り過ぎじゃないか。と言おうとしたが、ふとおかしい事に気付く。

「まさかあなたエスパーなんですか。私平和島くんのことは考えてただけですよ。」

そもそも私は平和島くんのことを彼に話した覚えがない。チャットでも、リアルでも。

「なんとなくね。君がシズちゃんのことを考えるのも嫌なんだよ。」

「ああ、なるほど、臨也さんは今日私に会う前から、私が私であることを知ってたわけですね。だから私が平和島くんと昔同じ職場で働いてた事を知っているわけか。まあ、噂の臨也さんですしね。当然といえば当然だし、当たり前過ぎて笑えてくるような話ですけど、なんで臨也さん私が昔平和島くんのこと好きだったことまで理解してるんですかね?」

「誰もそんな指摘はしてないよ。そんな事実、今初めて知ったさ。」

「嘘ですね。」

「嘘だけど。」

「それはともかく、私が平和島くんのこと考えるのすら嫌だって、嬉しいこと言ってくれちゃうじゃないですか。愛しちゃいますよ。」

今更ですけど。と私が笑うと、臨也さんも今更だろうね。と笑った。この上なく、冷めたような、それでいて人間味のある笑顔。チャットではわからなかったが、こんな風に笑うのか。神様ってより死神かも。ふと、そう思った。



2010/08/10
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