生物ですのでお早めに/吏人


サッカーやっている吏人はまあまあかっこいい。バスケとかバレーとか野球の選手とかでも、コートにいたら、とか、マウンドに立ってたら、とかあるじゃない?ああいう感じ。

「実際の吏人くんはそう格好良くもないから困るわ」

「それ酷くないスか」

「酷くない」

私のその台詞に、吏人は不服そうにしながら、近くの自販機へジュースを買いに行った。

正直な話、実はその逆なのだ。例え話の逆。つまり、吏人はピッチに立ってない方が、ああやって普通にしてる方がかっこいい。彼がピッチに立ってると、そう感じるのは私だけだろうが、必死過ぎて、なんというか笑いが入る。

私は生まれてこのかたほとんど頑張ったことがないし、部活やらに必死になったこともない。だからサッカーをやって必死になってる吏人はバカみたく見えてしまう。

といっても、多分吏人にはそんな意識ないのだろう。頑張ってるわけじゃなく、やりたいことをやってるだけ。私はただ、吏人が羨ましいのだと思う。ああやって何かに熱中出来る吏人が。

なにより、羨ましい以上に、吏人が遠い人に思えて嫌になる。私より年下なのに、吏人は私の倍以上の密度で一日を一生を過ごしているだろう。

そんな事を考えていると、自販機でジュースを買い終えた吏人がベンチへ戻って来たので、私はとりあえず先ほどしていた会話を再開することにした。

「でさ吏人くん」

「なんスか?」

「だからさ、つまり、サッカーだけはやめない方がいいよ」

「言われなくても」

会話終了。私はわりと吏人と会話するのが苦手だったりする。間をもたせる為に私も自販機へジュースを買いに行こうとしたのだが、ベンチから立ち上がった途端に吏人に私の腕を掴まれ、止められてしまった。

「なに?」

「いや、ジュースなら買っときました」

「よく気がきくこと」

差し出されたカルピスを受け取り、私はまた吏人の隣へ腰をかける。

しかしなぜ吏人からは喋らないのだろう。話題が彼との会話が苦手だという理由には、吏人から話題を提供してくれないということも含まれている。確かに黙ってた方がかっこいい気もするが、あまりに黙られてても楽しくはない。

「あのさ、吏人くんなんで自分から喋らないの?」

「特に話すこともないスから」

「もしかして私と会話するのつまらない?なら、学校帰りに引き止めてごめんね」

「一緒にいるだけで十分なんスよ」

照れ隠しなのか、顔を向こうに逸らした彼は、先ほど買ってきたジュースを飲み干すと、次にベンチから立ち上がる。

私はと言えば、彼の言葉の意味の受け取り方に困り、二秒ほど呆然としてしまった。

「じゃあ俺帰るんで」

「え。ああ、うん」

「今日は楽しかったッス」

「なら、良かった」

じゃあまた。と立ち去る彼の背中を私はベンチに座ったまま見送る。

とてもじゃないが、わざわざ見送ってやる気など起きなかった。

やっぱり吏人はサッカーしていない時の方がかっこいいと思う。だってあんな余裕な顔して、こんなに私を動揺させるんだもの。

振り向きもしない彼に、少々悔しい思いをしながら、私はカルピスを一気に飲み、空になった缶を少し離れた場所にあるゴミ箱に投げ入れた。

芽生え始めた気持ちも、こんな風に捨ててしまいたい。ピッチに立つ彼が、かっこよく見えてしまう前に。



2010/10/25
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