だからどんな君でも好きだって


小学生というのは、オレ達から見れば、とても自由で、無邪気で、可愛げのある存在だ。

あの頃はあの頃で何かと制約があったが、見栄や、くだらないプライドに振り回されて、大切なことを主張出来ないなんていうことはあまりなかった気がする。

つまり、彼女が小さくなったのは、多分とても単純なことで、見栄っ張りで無駄にプライドが高くて、大切な事だけ言わない自分に嫌気がさしたというところだろう。

公園のブランコを勢いよく漕いでいる彼女を見ながら、オレはそんな仮説を立てた。

穴だらけで、理由はともかく、現象についての説明は全く出来ていない仮説だが、しかし今の、欲しい物を欲しいと素直に言って、助けて欲しいと人に頼って、伝えたいことをきちんと伝えてくる小さな彼女を見ていると、あながち、この説は外れていないようにも思えてくる。

「榛名?」

ブランコから降りて駆け寄ってきた彼女が、心配そうにこちらを見上げいる。難しい顔をしてしまっていたようだ。

オレが悪かった部分も少なからずあったと思う。彼女がオレを求める前に、オレは我慢出来ずに彼女を求めてしまっていたのだから。

そのせいで、彼女は素直にならなくても済んでしまっていたのだろう。そうして、彼女はオレに対して、本当に欲しいものを自分から求められなくなってしまった。

恋人の前で、見栄やプライドなんて気にするものではなかったハズなのに。

申し訳なく思い、彼女の頭を乱暴に撫でた。膝をついて、怪訝そうな顔でオレを見た彼女を抱き締める。

戻れそうだと彼女が言ったのは、そろそろ気が済みそうだからということだろう。

一時的に気が済むだけでは、またこういうことになってしまうかもしれない。つまり、きちんと解決しておくべきなのだ。

「あの、榛名?人に見られるようなとこで小学生を抱き締めるのは良くないよ」

「あのな、キスしたいっつーなら自分からしてこいよ、バカ」

「何をいきなり……頭でも打った?」

「いちゃつきたいならそう言えよ、オマエはオレの彼女だろ。いちゃつきたくてもいいんだよ。」

「あの、あそこの人がなんかむっちゃこっち見てるんだけ」

「聞けっつの!人目なんか気にしてっからンなことになんだっつーのがわかんねーのかよ!そんな格好になんなくてもなぁ!元のままでも、オマエから甘えてきてもひかねーよ!」

「なにそれ!榛名の言ってること意味わかんないよ!」

そう言ってオレの腕から逃れた彼女は、相当イラついているようだ。これは口論になる雰囲気だとオレは瞬時に悟ったが、ここでひくわけにはいかない。理由をきちんと説明すれば、彼女は上辺だけで返事をして、元に戻ってしまうだろう。それじゃダメだ。

口論してでも、彼女から本音を引きずり出して終わらせなければならない。

ただ問題は口喧嘩でオレが彼女に勝った事がないという点だ。しかし今の相手は小学生。少々思考回路が単純になっている気もするし、五分の確率で勝てる勝負だろう。ちなみにオレの頭が小学生レベルなわけではない。

「なに?急になんなの?意味がわからなくて凄くムカつくんですが榛名おにーちゃん」

「まずその呼び方やめろよ。人目気にすんなっつってんだろ」

「……榛名は少しは周りの目を気にしたら?馬鹿なの?やっぱ馬鹿なの?今注目集めてんだからね私ら」

「じゃ、場所変えんぞ」

そう言って彼女の腕を強引に引っ張り、彼女の家へ戻る。道中、彼女がきゃんきゃんうるさかったため、またもや注目を集めたが、そんなことは気にしてられない。早くしなければ彼女が戻ってしまうかもしれないのだ。

ドアをあけて、彼女を強引に中に連れ込み、扉を閉めて鍵をかける。彼女の家なのだが、まるで幼女を誘拐してきたようで、なんとなくいたたまれない気分になった。

「なにすんのよ!腕痛かったじゃない!」

「いいから黙って話きけ!」

「なによ!なら早く結論言いなさいよ!」

「だーかーらー、オレはどんなオマエでも好きだっつってんだよ!遠慮なんてして……ん?」

ふと彼女の顔を見てみれば、嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。なんで、オレが本音を引きずり出されているのかは正直意味不明である。

「なに言わすんだよてめ」

「わ、」

「わ?」

「わ、たし、も、どんな榛名でも…………大好き」

そして何故この流れで彼女が盛大にデレてるのかが、オレにはさっぱり理解出来なかった。

オレに抱き付いてきた彼女はいつの間にか元の大きさに戻ってるし、結局オレの仮説が当たっているのかも、彼女とより対等になれたのかすらもわからないままだ。

「ああもう!っていうかこのワンピースキツい!着替える!」

「そりゃガキのサイズだしな。つーかオレの目の前でかよ」

「今更でしょ。で、着替えたらその、榛名といちゃつきたいな、なーんて……ほら、言ってやったんだから喜びなさいよ」

「あ?じゃ脱いだままでいいだろ。どうせもっかい脱がすんだからよ」

「はあ?なんでそうなるのかな?エロなしでいちゃつけないわけ?」

「はあ!?ありえねーだろそれ!オマエ、オレがどんだけ我慢したかわかってンのかよ!」

そう叫んではみるものの、せかせかと着替えて、オレの膝に控えめに座ってきた彼女を見ていたら、自分の主張が一気にどうでも良くなった。

膝に座る彼女は、やけに幸せそうなのだ。そしてオレもその幸せを共有している。

多分、もう彼女が小さくなることは無いだろう。



2010/10/19
最初から最後までギャグテイストですみませんでした。本当なら榛名をもっとロリコンにしたかったけど無理でした。とても残念です。
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