女と若者/沖田
「あ、起きた」
目が覚めると、目の前には見知らぬ女の顔があった。間合いを取り、とっさに刀を探すが、よく見てみれば、俺の刀はその女が大切そうに抱えている。
「アンタ誰でィ?」
「さあ」
女から殺気は感じられない。
刀を抜く気配もなく、動きもまるで一般人。寧ろ、隙だらけで危ないくらいである。
「ねえ、あなたなんでこんな物振り回してたの?」
振り回してたいた。と女は言った。
そういえば、俺は意識を失う直前、攘夷浪士と斬り合っていたのだ。
なのに何故ここにいるのだろう。と、辺りを見回してみる。小汚い納屋のような場所だった。
そうやって冷静になると段々と周りが見えてくる、先ほどから肩に激痛が走っていることにも、今気付いた。
「人を斬るの躊躇うくらいなら、人を斬るのをそもそもやめなよ」
「躊躇ってねェ」
「斬り始めてどれくらいなの?あなた、なんの為に剣を学んできたかわからないような顔をしてたけど」
なぜ見ず知らずの女にそんな事を話さなければならないというのか。
しかし刀は彼女が持っていて、俺は従わないわけにもいかなかった。
「1ヶ月、と少し前でさァ」
「そう」
「なんでそんなこと」
「あなた、昔の私と同じような顔をしてたから。ねえ、まだあなた人を斬らなきゃなんないの?」
「当たり前だろィ」
そう。と女は悲しそうな顔をすると、刀を俺に差し出した。
俺は警戒しながらそれを受け取る。
「ねえ、まだ人を斬るのなら罪悪感は、ここに置いて行きなよ」
「罪悪感なんてあるわけねェだろィ」
「なくても置いて行きな。人を斬ることや、剣に対する疑問も、全部置いて行くといいよ」
そう言って彼女は立ち上がり、俺を江戸まで案内するといって、外へ出た。背中を見せた彼女に違和感を覚えて、俺は身震いをする。
背中からの彼女の殺気は異常だった。
つまり、先ほどの隙というのは、前からなら刀を持たない俺にどこからかかってこられても勝てるという自信があってのもので、警戒をしていたと言っても過言ではないのだろう。
「沖田くん」
「なんで俺の名前知ってんでィ」
「テロリストとして、新しい敵の名前を調べておくなんて至極当然のことだよ。ねえ、沖田くん」
テロリストというセリフに俺は身体を強ばらせた。
だが、女はそんなことを気にも止めないというように話を続ける。
「あなたの罪悪感は私が持っていてあげる。もし背負える覚悟が出来たら、私を斬りにおいで。」
たかがそんな言葉で目の前のテロリストを斬れなかった俺は、とんでもないバカだ。
2010/10/19