アンチヒーロー同盟


「身をていして私を庇う榛名……想像できねえわ……」

「微妙に失礼だよな。それ」

「じゃあ榛名は敵の強靭から私を庇ってくれますかー?」

まず敵って誰だよ。と榛名にしては珍しく的を射たツッコミを入れてくれたが、私はそれを軽くスルーした。

問題なのは敵じゃない。榛名の気持ちだ。(とか言ってみる。流石にそのままは言わなかったけど)

「シチュエーションにもよるだろ。お前が悪役だったら庇えねえし」

「敵が悪役に決まってんじゃん」

「わかんねェだろ。オマエ性格わりーしな」

「隆也が世界の主人公だとして、真っ先に悪役認定されるであろうアンタには言われたくなかった。」

うっせ。それは謝ったっつの。榛名はそう言ったが、私はそんなことで例の件がチャラになるとは思えなかった。

だって隆也はあれで相当傷付いていた。

あれさえなきゃ、色々それ以外にも酷いことはしてたが、今も隆也はそれなりに榛名を尊敬していただろう。

「隆也可哀想」

「隆也隆也うっせーな。そんなに隆也が好きなら隆也に庇ってもらえよ」

「隆也が怪我したらどうすんの。」

「オレは怪我してもいいのか」

「嫌だけど。まあ、大丈夫だよ。榛名が怪我しそうになったら私が庇うから。例え榛名が悪役でも庇うから。」

本末転倒というか。そんな気もするが。大切なのはどちらが怪我を負うかではない。つまりは助け合いの気持ちだ。

「そしたらオマエが怪我すんだろ」

「いやいや。そもそも私が怪我するのを榛名が庇って怪我しそうになるわけだから、私がまたそれを庇って怪我しても、それは単なる予定調和に過ぎないよ」

「でも気分がわりーだろバカ」

榛名はなんだかんだで人が良いよな。と思った。そんな榛名を完膚なきまでにあそこまで腐らせるなんて、やはりあの監督は生かしておくべきではなかったかもしれない。

「あのさあ、榛名」

「なんだよ。」

「やっぱり私。榛名好きだわ。」

「は?意味わかんねーって……は?」

「庇ってくれなくていいや。何も望まないから、ただ、私以外のものにならないで。」

なるほど。この独占欲は悪役かもしれない。と、変な納得をした。

「オマエ、オレと付き合いてえの?」

「いんや、榛名を独占してえの」

「じゃ、付き合おーぜ」

「彼女は照れるから嫌です」

「なんでだよ。」

つーかテメーに拒否権なんてねーんだよ。と榛名は上から物を言うが、その表情に余裕はない。余裕がないというのは、他が入り込む余地がないということだ。

それって素晴らしく独占じゃない?なんて思いながら、私は榛名の頬に手を伸ばす。

「……なんだよ、この手」

「いやあ、榛名は可愛いなあと思ってね」

「男に可愛いなんて言うなよ」

「榛名をかっこいいなんて思うのは私だけでいいのになあ。しかし拒否権がないなら仕方がねえ。付き合ってあげるよ」

「オマエから告ってきた癖に」

あーあ。榛名の体温てなんでこんなに気持ちいいんだろ。思わずうっとりしてしまう。

私が悪役ならきっと榛名はヒロインだよね。いつかヒーローが助けに来ちゃうのかな。嫌だなあ。どんな手を使ってでも、いつまでも私だけのものにしときたいな。

ああ。これだから私は悪役なのか。

いくらわかっていても、この気持ちは、静めることも、ましてや鎮めることも、沈めることすらできやしない。

悪役がなんやかんやでヒロイン幸せにするなんてのも有りがちなんだから許してよね。

つまりはヒーローなんてクソくらえってこった。



2010/08/10
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