亡霊は笑う/坂田


「俺はお前の気持ちには答えられねーよ」

坂田銀時は優しく、残酷な事を私に告げる。

彼は昔から酷く不器用で、特にあの戦争が終わってからは、哀しいくらいに臆病者になった。

戦争が終わる前に気持ちを伝えていたら、なんて事を私は言いたいわけではない。

そんな事が哀しいわけではなく、ただ、銀時の存在そのものが悲しかった。

「銀ちゃんあのね。私は銀ちゃんに振り向いて欲しくて銀ちゃんを好きでいるわけじゃないよ」

銀時は哀しそうな目で私を見るのは、迷惑だとか、そういう意味では無いだろう。

「ったく、つまりお前も俺と同じなんだな」

彼は大切にされるのが怖くて、大切にするのが怖いのだ。

失うのが嫌で、失わせるのが嫌な、優しすぎる彼。

恐れることと、優しさというのは似ていて、彼のそれは多分双方を同じくらい持っている。

私が銀時を好きなのは、別に振り向いて欲しいからじゃなくて、そんな彼を一人にするのが恐いからだ。

私のそれに優しさなんて一切含まれていない。私のそれは、臆病者のエゴでしかなく、同じような気持ちで、何人もの人を傷付けてきた。

大切だと、大好きだと言った癖に、それはおかしいだのと突き放して、私は何人の人を見殺しにしただろう。

最後に残ったのは銀時だけだった。私はつまり、銀時に縋っているだけで、銀時は多分、彼らの代わりでしかない。

私達は二人で、同じように亡霊を背負い続けている。彼は当事者として、私は傍観者として。

「ごめんね、重くて」

「俺が勝手に背負ってんだ。気にすんな。」

「銀ちゃんはああ言ったけど、私は銀ちゃんをおろす気ないからね。」

その言葉に、銀時は何も言わなかった。やはり、彼は私よりずっと優しい。

亡霊は他ならぬ私達だ。

だから私達はお互いをも背負い合う。二度と互いが他の誰かを傷付けぬように。自分達以外が傷付かぬように。

「銀時」

「ああ?まだなんかあるのかよ」

「私達は死ぬまで、一緒だからね」

私達は同志でもなく、戦友でもなく、ましてや恋人でも、親友でもない。

言うなれば共犯者だ。

あの戦争で、最後に残ってしまった加害者だった。

「銀ちゃんをおろしたりしないから」

「……、」

「私をおろしたりしないでね」

私にとって一番大切なのは、どんな関係でもいいから銀時の傍にいることで。

だから一番最悪な方法で、私は銀時も、自分さえも傷付けて縛り付ける。

それに安心しているのが、私だけでないことを私は知っているのだ。

最悪なのは、私だけじゃないのだ。



2010/10/14
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