変わらずに変わる
今日も彼女の身体に変化はない。厳密に言えば、大きめに買っておいた服がピッタリになっているし、最初に比べ、ちょっとは成長しているようだが、小学生は小学生。大した違いは無いと思う。
オレが彼女のうちに帰ると、彼女は嬉しそうにペタペタと裸足特有の音を立ててオレに駆け寄ってきた。
「小学校5、6年ってわりにはオマエ、背が低いよな」
「まあ、私前から数えた方が背の順早かったからね」
「いっちょ前に胸はある癖にな」
「それもたまに言われた。」
今日、ちらりと近所の小学校を覗いてみれば、彼女より遥かに身長が高い女の子達が、ランドセルを背負って下校していた。
中には、オレのクラスメート以上に綺麗なモデルのような子までいて、例えばその子とデートをしたとしても、普通に彼女扱いされてしまう気がした。なにせ格好までオレ達の小学校時代の女の子よりお洒落で大人っぽいのである。
そんなこんなでジェネレーションギャップというのか、時代の変化をこの歳にして感じてしまい、妙な気分だった。
「しかし残念ながら胸の成長は中学で止まってしまってね、そのせいで榛名の彼女の胸はあくまで平均レベルの大きさだったわけ」
「ンなこと誰もきいてねーだろ」
「しかも揉んでもデカくならなかったのね」
「揉んでたのかよ」
「榛名に揉んでもらってたでしょ。ていうか揉んでもらったら身体が縮んだからね。意味わかんないね」
そんなバカなことを言いながら、彼女はオレの先をペタペタと歩き、リビングに着くと、机の前のいつもの場所に座る。
そしてオレがその隣に座ると、嬉しそうにオレの膝に移動した。どうやらアレ以来この場所が気に入ったようだ。
「しかしいつ戻るんだろうね、私の身体」
「知らねっつの」
「このままじゃ榛名といちゃいちゃ出来ないよ」
「オマエは常にソレか」
というか、元のサイズの時より積極的な気がする。普段ならベタベタしたがるのはどちらかといえばオレだったし、言うなれば彼女は気が強いわりに奥手だった為、少しオレと距離を置く傾向にあったはずだ。
「前から思ってたんだけどな、なんかオマエおかしくねー?」
「ん?なにが?」
「やたらとベタベタすんのが、らしくなねえっつーか」
「嫌?嫌ならやめるよ?」
「嫌ではねーけど」
そう。良かった。と、オレの胸に顔を埋めながら呟いた彼女が、一瞬、元に戻ったように見えた。
目の錯覚だろうか。だが、膝にかかった重みが変わったのを、オレの身体ははっきりと覚えている。
しかし、彼女自身はそれに全く気付いていないらしく、何も言わないことをおかしく思ったのか、小学生の顔で、不思議そうにオレを見上げていた。
「榛名?」
「いや、なんでもねー」
本当なら、彼女に今のことをきちんと話すべきだったのだろう。
それでもオレは話さなかった。なんとなく、彼女がこうなってしまったのは、オレのせいなような気がしたからだ。
勝手だが、この事はオレが一人で解決しなければならないと感じた。
「ならいいけど、そうだ榛名」
「ああ?」
「初日以来、一緒に外出てないじゃない?また外行こうよ。お散歩しよう?あ!私ブランコ乗りたい!」
思えば、彼女から、初めてのデートに誘われたかもしれない。今まではいつだって、オレの好きな時に、オレの好きな所へ連れ回していた気がする。
「なんとなくなんだけどね、もう少しで元に戻れる気がするの。そしたら仕事とかも復帰しなくちゃだし、この辺をのんびり散歩するなんてする暇ないでしょ?だから今の内にね」
散歩する暇があっても、させてやらなかったのはオレだ。彼女の気持ちなんて、したかったことなんて、今日初めてきいた。
「おう。じゃあ行くか」
その事実に、今更気がついた。
2010/10/13
次辺りに戻れると思います