二番目の男/秋丸


彼女にとって、オレがあくまでも二番目の男でしかないことをオレは知っていた。

オレは、彼女が昔想いを寄せていた先輩にそっくりなのだそうだ。

それでも彼女がオレの言葉で微笑むのは嬉しくて、その愛らしい不器用な笑顔をオレに向けてくれるだけでオレは満足で。例え、彼女がオレを通して誰かを見ていたとしても、オレは、満足だった。満足だと、いつも自分に嘘を吐いていた。

「秋丸。」

「あ、はる」

名前を言い終える前に、右手で思いきり殴られた。思わずといった風なのに、利き手を使わない榛名は、微妙に抜け目のないヤツだと思う。

何を言いに来たんだろう。今は、榛名の顔が、特に、一番、見たくないのに。

「千紗子さんが、ずっと言ってた先輩と再会したのは知ってるよな?」

「知ってるよ。それ結構前の話だよね?それが?」

「今日ソイツにコクるっつってた。お前はそれで」

「それが嫌なのは榛名じゃないの?」

その台詞が図星だったのか、榛名は一瞬黙ってしまった。

確かにオレだって、彼女が誰かの物になってしまうのは嫌だ。ただ、止めたところで、オレはどうせ二番目のままなのだ。それに彼女はきっと、結局先輩には告白しない。

「オレは、遠慮しねーかんな」

「今更なに言ってんの。」

「オマエがいかねーならオレが止めるっつってんだよ」

そう言って榛名はぐるりと身体の向きを変えて、来た道を戻るように走り出した。

榛名はバカだ。と、そう思った。彼女が何故、自分に対して、他の誰かに告白してくると宣言したのかわかっちゃいない。

彼女の好きだったのが、オレじゃなくてオレに似ていた誰かで、彼女が今は誰を好きなのかもわかってない。

遠ざかる背中が、曲がり角に消えた。彼女はきっと待っている。榛名が自分を止めてくれるのを待っている。

しばらくすると不意に携帯が鳴りだした。携帯を開くと、画面には彼女の名前が表示されていて、オレは内心ヒヤリとした。そして、期待した。

「も、しもし」

『ああ、もしもし私です。ねえ、秋丸くん。』

彼女の声が泣きそうだということくらい、電話越しでもわかった。しかし、その意味はわからない。

『あのさ、なんで来てくれなかったの?』

「それは、」

『私は、秋丸くんに来てほしかったんだけどな』

プツンと、なんの前触れもなく通話が終わった。今の電話から考えれば、榛名は彼女の元に辿り着いたのだろう。

ここで、オレが行かなければ、榛名はうまくやってしまう。臆病な足はさっきと同じように動かない。オレには自信がないのだ、走って行ったとして、彼女を幸せにする自信が。

だからオレは代わりに電話を掛けた。やはり彼女は出ない。まもなく留守番電話に切り替わったので、ただ本心一言残した。こんな男で良いのなら、と。

「オレは、本当は。ずっと千紗子さんの一番になりたかったんです」

それだけ言った電話を切った後、携帯から再度、着信音がした。恐る恐る携帯を覗くと、彼女からだった。電話に出る。しばらくお互い何も話さない。話し出せない。

『ずっと』

ようやく何か言った先輩に、もしもしと言いかけた唇が動きを止めた。息がつまり、返事が出来ない。

プツンと、また電話が切れた。なのに聞こえる彼女の声。

「ずっと、秋丸くんが一番だったよ」

携帯を耳に当てたまま、オレはその台詞を生で聞いた。顔を上げて、彼女の存在を確認すると、その彼女の後ろには不機嫌そうな榛名が立っている。

「自分で気付いてよバカ」



2010/10/11
榛名はヒロインの気持ちわかってたんだろうなあ
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