来年もまた歳を取る/坂田
寒くなってきたなあ。
そう思って外を見てみれば、しとしとと雨が降っていた。
ソファーで眠るこの店の主人は、相変わらず半袖という、とても寒そうな格好をしている。もう少し寒くなれば格好も変わるのだろうが、これだからこの微妙な時期は困る。
「坂田さん起きて下さいよ。そんな格好で寝てたら風邪ひきますよ」
そう言って肩を揺さぶるが、彼の瞼はしっかりと閉じられたままだ。
私は仕方なく、隣の部屋から布団を持ってきて、彼に掛けてあげることにした。
「起きないなら帰りますからね。ケーキ冷蔵庫に入れといたので、神楽ちゃん達が散歩から戻って来たら食べて下さいね」
耳元で大きめの声でそう言ってみたが、反応はない。ため息を吐きながら立ち上がろうとすると、不意に腕を掴まれ、体勢を崩し、坂田さんの方へ倒れこんでしまった。
「っ!起きてるなら起きてるって言って下さい!びっくりし」
「なァ、プレゼントってケーキだけ?銀さんちょっと色々期待してたんだけど」
倒れ込んだままだった私の身体を、坂田さんが布団ごしに抱き締めてきた。
緊張で身体が固くなったのがわかったのだろう。坂田さんがからかうようにニヤリと笑う。顔から火が出るくらい恥ずかしくなって、私はその体勢のまま強引に顔をそらした。
「なに今更照れてんだよ」
「プレゼントはケーキだけです。不満ですか」
「不満」
躊躇うことなく彼はそういうと、一瞬だけ起き上がり、器用に私と彼を隔てていた布団を取り去った。そして、身体を反転させ、逆に私の上に覆い被さる。
「坂田さ、」
「いい加減よォ、俺の気持ちに答えてくれてもいいんじゃねェ?」
目を逸らそうとしたのだが、彼はそれを許してはくれなかった。
重なった唇。思わず目を瞑った。目は逸らさなかったが、確かに彼を見ないで済んだ。しかし、そんなこと今更なんの意味もないのだ。
彼の唇が首筋に移動する。いつもと違う雰囲気の彼が怖くて、私は思わずソファーに爪を立てた。
「そんなビビるなよ。銀さん軽くショックなんですけどー」
「だっていきなり、」
「お前が嫌なら強引にはしねェよ。安心しろ。ほら、そろそろアイツら帰ってくっから、さっさとソファーから起きろ。」
そう言って坂田さんが上からどいてくれたので、押し倒したのはどこのどいつだと思いながら、私は起き上がり、ソファーから降りた。
坂田さんが優しいだけで、悪いのは私だということは明白だ。私はずっと答えをなあなあにしてきて、坂田さんはずっと答えを待ってくれている。
かと言って、私が急に素直になれるわけもなく。それでもこのままにすることは出来なかった。
「あー、あの、坂田さん」
「あァ?なんだよ?」
「来年の誕生日には、ちゃんとケーキ以外もプレゼント用意しときますね」
「来年ンン?ったく随分先の話だな、オイ」
「いいでしょう。今年は、キスさせてあげたじゃないですか」
余裕なんてものは全くなかったが、あたかも余裕があるようなフリをして言った。
坂田さんのことだ、多分それくらい見通しているのだろう。でも大切なところではからかわないで、気付かないフリをしてくれる。
結局私は、そんな彼が好きなのだ。
「ったく、来年はキスだけじゃ済まさねェから覚えとけよ」
そんなこと言ったも、こっちが嫌がったら何もしない癖に、と、小さく笑った。なんにせよ、私達の来年は保証されているらしい。
2010/10/10
坂田さん誕生日おめでとうございます。グッダグダでごめんなさい