他殺心中


「人は一人では生きて行けないって言うじゃない?でも孤独死って言葉はあるんだよねえ。榛名はこれおかしいと思わない?」

「一人じゃ生きていけねーから死んだんじゃねーの?」

いきなりそんな話を切り出した私に、榛名は少しだけ怪訝な顔をした。

そして、ある意味正論ともとれるような模範的回答をすると、何を思い出しているのか、とても暗い顔をする。

多分、私の話なんて、ほとんど右耳から左耳に抜けていっているのだろう。普段の彼なら、こんな日に私がこんなことを言おうものなら激怒するに決まっている。

しかし、こんな日だからこそ、彼は怒る気力すらないのだろう。

今日は、榛名の彼女のお葬式だった。

「私の話なんかきいてないだろうけど言うよ?孤独死をするってことは生前も孤独だったってことでしょ?生前があるなら、それは一人で生きてたってことだと思わない?まあ、私はこんな話がしたいわけじゃ無いんだけど」

「意味わかんねーよ。ちょっと黙れ」

「つまり、私は逆を言いたいの。人間は一人では生きていけない。正しいよそれは。ただ孤独死ってのは、一人で生きてた人間のするものじゃないよねってね。孤独死は有り得ないんだよ。」

「黙れっつってんのがわかんねーわけ?」

「わかりやすく言えば、人間は一人で生きれないんじゃなく、一人じゃ生きてることにならないんだよ。人が生きるってのは、何かに影響を与えることなわけで、死ぬってのも同じこと。死んだ人間が一人でさえなければ、周りには良くも悪くも影響がでる。でもねえ、それが一切ないような、本当の本当に孤独に存在していたヤツってのがいたとしたら、そいつは多分、生きていたことにも、ましてや死んだことにもならない。だから孤独"死"は有り得ないわけだ。」

キレるかと思って榛名の方を見た。なのに榛名は、自分の膝の上で拳をこれでもかというくらい握り締めて、ずっと下を向いているだけだった。

嫌みなのに反応もしないのだ。本当に嫌になる。

彼女は確かにほとんど一人で生きていた。でも確かに、彼女の中には、私はいなくとも榛名は存在したのだ。榛名の中に、彼女が存在したように。

「あのこは、ちゃんと死んだよ」

榛名の肩が、バカみたいにびくりと跳ねた。可哀想な子だと、哀れに思った。

「榛名があのこを生かしてたよ。」

さっきの台詞より、ずっといい台詞だった。綺麗事過ぎる綺麗事。彼女が死んだ理由を知っているか。お前が彼女を生かしたからこそ、彼女はお前のいない世界に愛想を尽かしたのだ。

「後追いなんだからさ、一緒に天国行ってやんなよ。こんなとこに止まってないで。」

目の前に座る男は生きていない。幽霊かもしれないし、頭のおかしい私が見ている幻覚かも知れない。多分後者だろう。

「オマエは本当に」

「私は本当にサイテーだよ」

私のこの手が、彼の首を絞めた日の事を私は今でも夢に見る。同じ夢を何度も何度も。罪悪感は確かにあるのだ。それでも私は捕まらない、捕まれない。

ふと見ると彼は消えていた。長いこと正座をしていたせいだろう。足が痺れてしまったようだ。その感覚に生きている事を実感する。

「天国なんてなけりゃいいのに」

あの世があるとしたら、私がいくのは地獄だろうから、少なくとも私は二度と、二人の仲睦まじい姿を見ることは無いだろう。それだけで、私は報われる。



2010/10/18
炉心融解の、「君の首を〜」の部分を聴いて書いた話。
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