きっかけにも満たない/吏人


うちの近くにラウンドワンが出来た。私は部活や委員会には入っておらず、放課後暇だったので、友達を誘って行ってみることにした。

「私、あの、人と一緒にに投げるイベントみたいなの苦手だなあ。」

「ああ、あれ無茶苦茶緊張するよね。」

友人の言葉にそんな台詞を返しながら、とりあえずボウリングを始める。私のスコアは、まあ素人丸出しのスコアで、友人も大体同じようなものだった。

2ゲームやって、ゲーセンへ移動。自分の欲しかったぬいぐるみはとれなかった。そもそもぬいぐるみなんて私のキャラではないのだ。友人は、私が落として、いらないと言って押し付けたぬいぐるみを、嬉しそうに抱えている。可愛らしい笑顔だ。やはり、彼女の方が、あのぬいぐるみは似合う。

「千紗子ちゃんありがとう」

「別に、UFOキャッチャーやりたかっただけだし」

なにはともあれUFOキャッチャーに飽きたので、次はプリクラ機へ移動することにした。笑顔を作るのは本当に苦手だ。細かいお金がなかったので、私は友人をプリクラ機の前に残して両替機に向かう。

その際、ちらりと先ほどのUFOキャッチャーに目をやると、高校生っぽい男の子が凄い剣幕でぬいぐるみを落とそうとしていた。そんなにあのぬいぐるみが欲しいのだろうか。似合わないのに。

じっと見ていると、ふいに男の子がこちらを向いて、一瞬目があった気がして気まずくなった。タイミングよく迎えにきた友人が大きな声で私を呼んでくれたので、私はそそくさとプリクラ機へと戻る。



数分後、私達はようやくプリクラを撮り終えた。落書きも私と友人好みにシンプルに終わらせ、あとはシールが出てくるのを待つだけである。

この位置からではUFOキャッチャーが見えないのだが、彼はもう帰ったのだろうか。まだやっていたら可笑しいなあと思いながら、出てきたシールを二人でハサミで分ける。

「っつ、」

どこをどう間違えたのか、私はハサミで指を誤って切ってしまった。少し深めに切ってしまったために、血が滴りそうになる。制服などを汚すのも嫌なので、途中まで切ったプリクラを友人に渡し、傷口を洗い流すために一人御手洗いへ向かう。

その途中、UFOキャッチャーを見たのだが、やはり彼はいなかった。



「お待たせ」

そう言って友人の元へ戻ると、何故か彼女の抱えるぬいぐるみが増えていた。不思議に思い、それをどうしたのか訊ねようと口を開くが、私が聞く前に、友人は可愛らしい声で先に答えをくれた。

「なんかね、男の子が、いらないからくれるって」

あのUFOキャッチャーをしていた。というと、"彼"しか思い浮かばないのだが。

狙っていたぬいぐるみではなかったのか、それともただ、UFOキャッチャーがしたかっただけなのか。もしくはこういうナンパ目的だったのかもしれない。

良かったね。でも知らない人から簡単に物をもらったら駄目だよ。と、子供を諭すようにいってやれば。彼女は、あ、でも。と何かを思い出したような声を出して、そのもらった方のぬいぐるみを私に差し出した。

「これ、千紗子ちゃんにだって」

受け取りながら、彼と目があった瞬間を思い出してみる。よくよく考えてみれば、両替機とあのUFOキャッチャーとはそれなりに距離があったのに、私は何故、彼と目があったと感じたのだろう。

あまりにも彼がはっきりと私に視線をくれていたからではないだろうか。

直接渡してくれたらお礼くらいしたのに。と私が言うと、友人は、急いでたみたいだから。とふにゃりと笑う。

「……また、あの人ここにくるかな」

「あれ?千紗子ちゃん、くれた人に心当たりあるの?」

そう指摘した友人は、私がぬいぐるみをあげた時より嬉しそうな顔をしていた。何がそんなに嬉しいのか、私にはさっぱりわからないが、バカにされている気がしたので小突いてやる。

「なににやついてんの」

「千紗子ちゃんが嬉しそうだから、なんか嬉しくて」

嬉しかったのは欲しかったぬいぐるみがたまたま手に入ったからだ。言い聞かせるようにそう思い、ぬいぐるみを抱き締める。顔が熱いのはきっと気のせいだ。



2010/10/06
天谷くんがUFOキャッチャーって良くないですか?って話
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