陽向と日陰


「ああああああ! なにやってんですかもう!」

「なにって……太陽光を浴びようかと」

「浴びようかと。じゃないです! 死にますよアンタ! 今日は午後から雲が晴れるから、こっち側の縁側で寝ないで下さいって言っといたじゃないですか!」

神威は夜兎だ。太陽光が苦手で浴びたら死んでしまう可能性もある。だからこそ私は、死なないように、毎日毎日、天気予報を調べて、太陽が照る時間を把握したし、彼がうちへ遊びにくる日には、例え夏でどんなに暑くても、障子を締め切って太陽光が出来るだけ入らないようにした。

なのに、この馬鹿は。人の好意を総無視して、わざわざ太陽光を浴びようとしていたのだ。この人は確かに馬鹿だけれど、流石に自分の体の構造の基本的な部分くらいはわかっていると思っていたのに。

「だからこっち側で寝たんだろ?」

ケラケラと笑い、起き上がりながら、当然のように言う。神威にちょっと殺意が芽生えた。私が洗濯物を干しにここに来なかったらどうなってたと思ってるんだこの馬鹿。少なくとも、意識は朦朧としてたぞこの馬鹿。

「なんで、そんな危険なことするんですか。死にたいんですか?」

「まさか。強いやつと戦えないまま死ぬなんて、俺は絶対に嫌だよ」

「じゃあなんで……」

「せっかく地球まで来て、あんたのところに遊びに来たのに、構ってくれないから」

確かに、私は神威を迎える支度を整えただけで、神威が来てからは、家事やらなんやらで構ってあげられなかったけれど。

「だからってこんな、命かけなくても、」

「俺にとっては命をかけるに値する事なんだよ。だから構ってよ」

「じゃあ、とりあえず、洗濯物だけは干させて下さい。そしたら構って……」

「やだよ。あんたは俺より洗濯物の方が大切だって言うのかい?」

ニッコリ笑って、彼はまた、後数十分も経てば日が当たる縁側にごろりと寝転がった。ああもう!と彼を起き上がらせ、雲が切れても日の当たらない室内に移動させる。ちょっと寝転がっただけなのに彼は既に眠そうに目を擦っている。ふざけて寝ているのかと思っていたが、結構真面目に眠かったらしい。

「眠いなら今布団用意しますから」

「あんたの膝枕で十分だから、早く眠らせて。眠い」

うとうとしているのが見ていてわかる。

ふらりと神威の体が傾いた。慌てて私はそれを受け止める。仕方なく、膝枕をしてあげると、彼は直ぐに寝息をたてはじめた。

空ではようやく雲が切れたのか、元気そうに太陽が照っている。日陰に置きっぱなしにしてある洗濯物が、うらめしそうにそれを眺めている気がした。



2010/08/10
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