二面性と多様性を魅せる


「いつになったら戻るンだろうな」

彼女が小さくなって3日目。小学生のままちっとも成長しない彼女は、机を挟んだオレの向かい側で、オレの焼いたホットケーキを頬張っている。

「わかんない、戻らなかったらどうしよう……」

「シリアスなこと言いながらウマそうにホットケーキ食ってんなよ。まんま小学生だからなオマエ」

「だって、せっかくだから小学校時代の感覚を堪能しようと思って」

そう言いながら、彼女はホットケーキの最後の一欠片を噛まずに飲み込む。出会った頃の、あまり飯を噛まない癖が戻ってきたようだ。

「榛名、もしかしてキスもできないから欲求不満?」

「小学生にキスなんかしてーと思うかバーカ」

「思わないの?私は私だよ?榛名は私の見た目が好きなの?お婆ちゃんになったらアウト?」

「そうじゃねーよ!なんでオマエは極端なんだよ!つーかオマエはどうなわけ?キスとか」

「もちろんしたいよ。私は私だもん。」

メープルシロップまみれの唇。キスしたらすげー甘いだろうとか、そんな事を考えていたら、察したように彼女は唇についたシロップを舌で舐めとった。小学生には見えないくらい妖艶だ。その通り、小学生ではないのだが。

「榛名とキス出来ないなら、このままじゃ困るな。早く戻らなきゃ」

「それ以外でも困ンだろ」

「キス出来ないのが一番困る。」

そう言って、彼女は立ち上がり、まあ、仕方ないから今はお兄ちゃんな榛名を堪能しますかね。と、テケテケと移動し、勝手にオレの膝の上に座る。

推定年齢は10、11才くらい。胸も少しは発育している。しかもしているのはオレの目の前で購入したスポーツブラだ。そのせいでこの位置からは胸が丸見えで、オレは物凄く微妙な気分になる。初日からヤバかったというのにこいつは何を考えているのだろう。

「榛名の膝には、初めて座るけど。なかなか座り心地いいじゃないの。」

「オマエなら成長しても座れるだろ。ちっせーし」

「どうかなー。流石にあの年格好じゃ照れるよ」

「精神年齢は変わんねーだろ」

「なんとなくね」

なんとなく。があるというのなら、今オレがなんとなくキスなどをしたくない気持ちもわかってほしいものだ。

膝に座る彼女を後ろから抱き締めた。あくまでもお兄ちゃんとして。そう思っているつもりなのだが、今にも理性がどこかへ行ってしまいそうになる。

「榛名おにーちゃん」

「ンだよ」

「小学生に欲情しちゃうのは、流石にアブナイんじゃないの?」

そう言いながらも、オレにもたれかかる彼女は、多分同じように欲情しているのだろう。

我慢しきれずに、唇を彼女のそれに押し付けた。微かにまだメープルシロップの味がしたので、離れ際に再度それをなめとってやる。

「おにーちゃんやーらしー。」

そう言ってからかうように目を細めた彼女を押し倒してしまっても良いだろうか。

流石にそこまでする度胸はなく、オレの膝の上で、ガキのように両手でコップを持ってジュースを飲む彼女の頭をぐしゃりと撫でた。

ジュースを飲みながらオレを見上げた彼女は、やはり小学生にしか見えなかった。



2010/10/03
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