本当はずっと最初から


「榛名はさ、なんで私が好きなの?」

本を読みながら、ふと疑問に思ったことを口にしただけなのに、私の布団の上に座って、こちらを見ていた榛名はあからさまに不愉快そうに顔を歪めた。

ムカついたので、本を読むのを中断し、彼がうちに来てTシャツに着替える際に、部屋に脱ぎ捨てた制服を拾い上げ、本人に投げつけてやる。

榛名は、頭にかぶさったそれを忌々しげにひっつかむと、近くにあった自分の鞄の上に投げ捨てた。

「んで、ンなこといきなり聞くんだよ。ズイブン今更じゃねーの。」

「今更っことはないでしょ。なんとなく気になったの。だって、榛名の好みタイプではないよね、私」

「オレのタイプ、オマエ知ってンの?」

「なんとなくわかるよ。綺麗系より可愛い系で、ある程度融通は利くけど、芯が強くて、きっちりしてるタイプでしょ」

榛名は、私のその予想を黙って聞いていた。途中で少なくとも一カ所はどこか否定すると思っていたのだが、彼は私が話し終えるまで何も喋らなかった。

「それ、まんまオマエじゃねーの?」

「はい?」

「まあまあカワイイし、頑固だけど人には甘いとこあるし、適当に見えてやることちゃんとやってるし」

「上手く言い換えたね」

「まあ、オマエのそういうとこ好きだかんな」

「ていうか、なんで私には積極的なのかな。宮下にはもっと」

「オマエには好かれてる自信あっからな」

なるほど。だからこそ榛名にとってあの質問は今更だったわけか。

勝手な自信に苦笑しつつ、図星をつかれた動揺を隠すために、私は先程まで読んでいた本を開いた。

「テメー、オレにここまで言わせといて無視すんなよ」

「榛名くん先輩には敬語使おうよ」

「敬語キモいっつったのそっちだろ」

「冗談だよ。」

「つーか話変えンな」

いつの間にか、榛名は私の目の前に移動していた。近い上に真顔でそんな事を言う彼に、私は思わずびびってしまい、話を仕方なく元に戻す。

「じゃあさ、その根拠のない自信はどこから来るのかな」

「……先輩、寝言でオレの名前言ってましたよ」

「え、嘘。ていうかこのタイミングで敬語使わないでよ」

「嘘じゃねっつの。」

そう言って、榛名は私を抱き締める。自分の心拍数が一気に上がったのがわかり、恥ずかしくなった。

「何度も言ってっけど、オレ本気でオマエが好きなんだよ」

「うん何度も聞いた」

「だからいい加減答えだせっつの。毎週オマエんちに通ってるオレがバカみてーだろ」

「ああ、それは嬉しいよ」

榛名が一瞬、びくりと反応をしたのがわかった。次の瞬間には抱き締める力が少し強くなり、また次の瞬間には、榛名が私の首筋に顔を埋めていた。そこで喋るものだから、くすぐったくてたまらない。

「わかりやすく言えよ。」

「あんたは女の子か」

「うっせ」

「……私も榛名が好きだよ」

少々投げやりな言い方になったが、榛名は納得してくれたようで、そのまま布団の上に押し倒された。

押し倒したのに、体を離そうとしない榛名は、何がしたいわけでもないのかもしれない。私は仕方なくその態勢のまま、天井を見つめる。

しばらくして聞こえてきた寝息に、私はまたムカついたが、毎週来てもらっている方としては、文句も言えない。

今日からは、榛名は勝手に来ているわけではなくなったのだから。



2010/09/30
榛名が乙女です
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