君と歩む未来


「未練?」

「そう、未練」

いきなり死後の世界だのなんだのと言われても、当たり前だがすぐには信じられなかった。

しかししばらくして、自分の死んだ記憶を鮮明に思い出したオレは、一度激しく取り乱し、そしてようやく落ち着いた。一度彼女を殺して、落ち着いた。

「ここはね、青春時代になんかしら未練があったりする人がくる地獄なの。あなたには何か心当たりはない?」

「……ねーな。色々ムカついたことはあったけど、やり直したくないくらい、なんつーか、幸せだった。」

「そっか。じゃあ多分、生きたりないのかもね、生に対しての未練なのかも」

彼女はそうわけのわからないことを言って、ゆっくりと立ち上がる。オレが屋上から突き落としてぐちゃぐちゃにした身体はいつの間にか治ったらしい。

そして、手を差し伸べ、オレも立ち上がらせると、空を見上げ、落ちていく夕日に眩しそうに目を細めた。

「生き足りないだけなら、三回くらい死ねば納得して消えられるよ。生き飽きるから。」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよ。とりあえず、普通に授業受けて、部活して、それですぐに飽きて消えられる」

夕日から目をはなして、オレの方へ向き直りそう言った彼女が、羨ましそうに、彼女が微笑む。

彼女は、少なくともここで一度は死んだわけだが、それでも消えられない理由が、つまり未練があるのだろうか。

だとしたら、彼女はどうすれば幸せに消えられるのだろう。

「榛名くん」

「なんだよ。……?」

オレは名前を言っただろうか。不思議に思う。

それをわかっていてだろうか。彼女は、にっこりと寂しそうに笑った。

先程から、何か胸に引っ掛かるような気がしていたのだ。オレは彼女を知っている。

「ずっと、待ってたの」

「誰を」

「名前は変わらなかったのね。なんだか可笑しい」

「何がだよ」

「前にあなたが死んだ時、私はあなたとここで恋をしたの。だから私は、あなたがまた死ぬまで、また未練を持って死ぬまで待ってた。私、言えなかったから。あなたが来てくれたから、私はようやく消えられる」

オレの頬に触れた右手が、何故だかとても愛しかった。記憶にはないが、オレはやはりこの手を知っている。

「私ね。素直に言えなかったけど、榛名が好きだったよ。今度は、ちゃんと二人で生まれ変わって、もう一度あなたと恋をしたい。」

お前は、それでいいのかと言いかけた。ここは多分、永遠の場所で、生まれ変わっても出会えるとは限らない。なのに、何故彼女は、何故以前のオレは、消えることを選んだのだろう。

それは、考えるまでもなくわかるようなことだが。

「榛名がまたここに来てしまったのは、私の所為かもしれない。榛名はきっと生前に満足してるもの。良かったら、消えられるなら一緒に消えませんか?本当に良かったら、なんだけど」

オレは、何故か納得していた。ストンと、なにかが腑に落ちたみたいだった。

「また、会えるよな」

「うん。きっと会えるよ。今度は信じてるから」

「あのさ、オレ前も言ったけどよ、」

「ん?」

「何度生まれ変わったって、お前を見付ける自信、あるからな」

音も立てず、彼女が消えた。涙は出なかった。生まれ変わったら、オレはもう一度野球が出来るだろうか。プロになり損ねた今回を忘れてしまっても、今度こそプロになれるだろうか。もしなれなくても、良い先輩にまた巡り会えるだろうか。そして、生きた彼女に出会えるだろうか。

そんな期待に胸を膨らませ、オレはオレの物語にピリオドを打つ事にした。

とても、満足な一生だった。

2010/09/23
AB!パロ。直井好きだから書きたいんだけどね。ていうか、音無に抱き締められた直井みたいに榛名に抱きしめられたい(お粗末様でした)
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