惚れた弱み


私は榛名の事が大好きだ。会話するだけでめちゃくちゃ緊張するし、二人きりになったりしたらまともに会話すら出来なくなるくらい大好きだ。

「いい加減榛名に告白したらどう?」

「涼音ちゃんさ、私が人に告白したことないの知ってるはずだよね」

「何事にも初めてはあるんだから、ね?」

「無理。やだ。」




涼音とそんな会話をして早二年。榛名も無事高校を卒業した。しばらく榛名とは会っていないし、もしかすると、私の緊張も緩くなってるかもしれない。悪化している可能性もあるが。

待ち合わせ場所に榛名の姿があるのが見えた。意外にも私はリラックスしている。

コンタクトをいれて来なかったのが良かったのかもしれない。

というか、コンタクトしていないのに、この距離で榛名が榛名だとわかるということは、やはりいまだに私は榛名のことが好きなのだろう。しつこい自分がちょっと気持ち悪かった。

「あ、先輩」

少し近付くと、榛名が私に気付いた。榛名の顔がはっきりわかった瞬間に、私の身体が一気に緊張したのがわかった。悪化はしていないようだが、なるほど、あまり変化はないようだ。

「久しぶり」

そう言いながら、榛名から思わず目を逸らす。この態度のせいで、榛名は加具山くんに、私に嫌われている気がするがというようなことを漏らしていたらしい。だから私は涼音に告白を勧められたわけだ。

「一年ちょっと会ってないですもんね。メールもこの前アド変のが来るまでしてませんでしたし」

「あー、そうだっけ?」

「今日はいきなりスンマセン。映画、誰誘っても来てくれなかったんで」

「それは気にしないで、私もあの映画気になってたから」

じゃ、行きましょうか。と私の腕を勝手にとった榛名は、なんだか前より私に対して態度が積極的になった気がする。この間のメールで、嫌っているわけではないことを話したからだろうか。

それにしても、今の自分の態度を振り返って感じたが、確かに嫌われていると勘違いしてもおかしくないくらい雑な返事をしている。高校の時も多分こんなんだったのだろう。

なんにせよ、こんな風に冷静に自分の行動を振り返れる分、緊張はあの頃よりは緩和されているようだ。

「映画、2時半くらいからなんスけど、なんか食います?」

「あ、まだ1時前だもんね……って、なんでこんな早くに待ち合わせにしたの?」

「今日午後から暇だったんで。早い分にはいいじゃないスか」

悪びれる様子なくそう言ってのけた彼に、私はため息をついた。どうやら私への対応以外はほとんど変わっていないらしい。オレサマなとこは特に治っていない。まあ、そこも好きだから良いのだが。

そんなことを思っただけで、照れくさくなった。そして、腕を掴まれていただけだった筈が、いつの間にか手を繋ぐ形になっている事に気付き、私の思考は停止する。

「昼飯、オレはパスタかラーメンって感じなんスけど、先輩はなにが……先輩?」

「あ、いや、なんだっけ?」

「だから、何が食いたいかって」

「榛名の好きなものでいいよ」

と、いいつつも、全ての意識は手に集中している。男らしい手だなあ。とか、そんなこと考えては照れ、考えては照れを繰り返し、無言で榛名について行くと、映画館と同じ大型量販店に入っているパスタのお店についた。

「混んでるみたいっすけど、ここでいいっすよね?」

「う?うん、いいよ」

「あの、先輩」

「ん?」

「手、嫌なら離しますけど」

「い、嫌じゃないから!」

慌てて思わずそう大声を上げた私に、榛名は少し驚いたような顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑った。私はその表情の意味がよくわからず、不思議に思い、首を傾げる。

それにしても、榛名は笑顔も素敵だ。

「先輩ってオレんこと大好きなんですね」

「なんでそんなことに、」

「メールで加具山先輩が言ってました。」

「私加具山くんには話した覚え……!」

「ああ、他の誰かには話したンすね。オレのこと好きだって」

まさか、余裕の無さをこの方向に利用されるとは思いにもよらなかった。手さえ握られていなければ、走って逃げているところだ。

「好き、というか、その」

「好きなんすよね」

「好きというか」

「オレは先輩のこと好きですけど。」

「え、本当に?私も榛名が好きだよ」

言ってから、単純過ぎる自分に恥ずかしくなった。なんだこれなんだこれなんだこれ。榛名に甘え過ぎてるだろう。

周りの景色が見えないくらい頭がぐちゃぐちゃになったところで、榛名の名前が店員さんに呼ばれた。どうやら、思ったより早く私達の順番が来たみたいだ。

席について、注文を済ませると、榛名はにまにまと笑いながら、私をじっと見ていた。こちらをずっと見ているので、私は顔があげられず、テーブルのキズを眺めていた。

「先輩」

「なに」

「オレ達、付き合ったってことでいいんすよね。」

「んんー、うん」

「なんで悩むンすか」

「照れるから」

素直にそう言っているということは、だ。私は、多分半分くらい計画的に可愛い人間のふりをしているのだと思う。

でもやはり、榛名に対してあまり余裕がないのは本当なので、榛名が好きになった私が全くの作り物ってことではないのだろう。

私は、好きな人に好きになってもらうために頑張ってただけなのだ、三年半くらいの間。

「あ、性格悪い先輩でも、オレ好きですよ」

「え?」

榛名は一体どこまで私を知っているのだろうか。



2010/09/16
映画みるのにコンタクトを入れ忘れるのは私です。
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