何もかも今更な話


「……お前、二年の下駄箱でなにしてんだよ」

「いや、あの」

なんて事だ。無記名のラブレターを靴箱に入れているところを本人に見られるなんて。

そろそろ夏大が始まる、そして私は三年生、今年でこの学校を卒業するわけだ。

だから、とりあえず、名前は告げずに、榛名のことが好きな女の子がいるということと、その子が夏大頑張ってねって応援していることを伝える為だけに手紙を書き、そしてたった今それをその相手の靴箱へと入れたところだった。

さて、どう誤魔化す。私。

「榛名の上履きに画鋲を設置しに来たらこんなものが……」

「あん?……ラブレターなんて、古風なことするやつ未だにいたんだな。それより、前半が聞き捨てならねーんだけど」

「さあさあ、中身が気になるだろう?読んでみたらどうだい?では、私は教室へ行くとするよ。さらばだ明智くん。」

そう言って手紙を押し付け立ち去ろうとすれば、榛名に襟首を掴まれ、首が絞められる。振り返れば、榛名は左手で受け取った手紙の裏表を名前を探すかのように確認していた。

「離してくれないか明智くん。」

「待てっつの二十面相。画鋲の話がまだ済んでねーだろ」

「乙女の心が籠もったラブレターのが大切だろう?さあ。読みたまえ、そして私を解放するのだ」

「その妙な喋り方どうにかなんねーの?じゃあこれさっさと読むから待っとけ」

襟首から手を離して、手紙を開封する榛名。目の前で自分の書いたラブレターを読まれるなんてどんな羞恥プレイだ。

「っと、なになに?『ノーコンな榛名くんへ』は、なにコイツ、喧嘩売ってんの?」

「きっとツンデレなんだよ。手紙書いた人は。」

自分で自分にフォローいれるというか、自分の手紙を解説するとか本当これなに?拷問ですか?

じりじりと後ろ向きに、フェードアウトするかのように立ち去ろうとすると、手紙を持っていない右手で制服のリボンを掴まれた。ちなみにリボンはゴムでくっついている。

「これ離したらわりとイテーんだろーな」

「榛名のドS。ノーコン。」

「黙れツンデレドM。続き読むから待ってろ」

既にゴムが結構伸びていたりするので、この状態で離されたら堪らない、と私は二、三歩榛名に近付く。さっきの会話に何か違和感があったような気がしたのだが、多分私の気のせいだろう。

「……えーっと。なんだよこれ。『面倒臭いから本題だけ箇条書きで書かせて頂きます。』?」

「キチンと言葉にするのが照れくさかったんだよ。多分。ていうか読み上げるのやめませんか?」

「まあ、オマエが言うならそうなんだろうな。ちなみにぜってーやめねーから。」

「私に聞かせる意味がわかんないよ。てか榛名ってなんで私には敬語使ってくんないの?」

「『・私は榛名が好きです』まあ、ラブレターだしな。」

「わお、スルーですか」

「『・夏大頑張って下さい』かなり話飛んだな」

「仕方ないよ。その子多分好きだという言葉をあまり目立たせたくなかったんだよ」

「あっそ。で、最後が『・私が卒業しても忘れないでね』か。その前にオマエは誰だ。最後まで名前書いてねーし」

結局最後まで読み上げられてしまったわけだが、幸い、私は、誰にもバレないよう、手紙を下駄箱につっこんでおくために、かなり早くに登校したので、周りには人っ子一人おらず、榛名の音読が誰かに聞かれることはなかった。

「しかしきったねー字だよな」

「あー、確かに女の子にしては汚いよね。うんうん。」

「この字は読み慣れてるオレじゃなきゃ読めなかったな」

「榛名も字汚いもんね。」

「にしても、なんでコイツはラブレター入れる時間は友達に相談しても、書く内容の方は相談しなかったんだろうな。」

「そりゃ、内容の相談なんかしたら、その友達に好きな人がバレちゃう可能性が……ん?あれ?…………あのさ榛名。いい加減リボン離してよ」

「逃げるだろオマエ。」

「私今なら顔から火を出せる気がする!ていうか宮下コノヤロー!」

「宮下先輩に言われなくても、この内容ならオマエ以外にいないって気付いたけど。てか最初に自分で答え言ってたしな、このツンデレ。つーか、オマエに言われなくても夏大は頑張るし、忘れたくてもオマエの強烈なキャラクターは忘れらんねーっつの。なにより、オマエがオレンこと好きなんて野球部みんな知ってるかんな。オレ含めて。」

「あああああ!もうやめてやめてやめて!このS!ノーコン!」

「オレがオマエんこと好きなのも、みんな知ってるけどな。オマエ以外。」

その言葉で、ほんの少しだけ余裕を取り戻した私は気付いた。榛名の顔が私に負けないくらい真っ赤だということに。

「え、榛名、私のこと好きなの?」

「そう言ったろ」

「ごめん、あの、嬉しくて泣きそうなんですが」

「ったく、泣けよ。ほら」

手紙を持っている方の手で、自分の頭を掻きながら、榛名はリボンを掴んでいたもう片方の手を私の後頭部に移動し、乱暴に私を抱き寄せる。

「うわ、い、いきなりこういう恋人的なのはどうかと……」

「ウッセ、ずっとオマエのこと触りたくてたまらなかったンだからしばらく触らせとけ」

「なんかそれエロい」

「あ?もちろんエロいこともしてーけどな」

「……この変態、ノーコン。」

ちなみに、だ。この私の一世一代の告白劇を野球部ほぼ全員が物陰から覗いていたことを私と榛名はまだ知らない。しかし、この数秒後、唯一覗きに来ていなかった秋丸が、『なにやってるんですか?先輩達』と言って、その事実をバラしてしまうのでありました。めでたし、めでたし?



2010/09/15
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