計算外


「吉原の件、ですか。」

「奴ら、ああは言っていたが、信憑性が有るわけでもない。寧ろ無いに等しい。そこのところ、第七のお目付け役であるお前はどう思っているのかと思ってね。」

上の連中は、私の様な中間管理職の人間にばかり、厄介事を押し付ける。こんなところでも、そういうところだけは一般の会社とは何の変わりもないのだ。

「吉原には、視察という目的も含めて行かせたのですから、彼等のした事を少しくらい多目にみては如何でしょう?」

「しかしだな、アレに吉原を任せるというのは、」

そして、一部の上は、怖くもあるのだ。あの夜王を殺したというあの餓鬼が。これから更に力を持っていくのが。

「どちらにせよ、吉原については、どこかしらに任せなければなりません。ならば夜王と同じ第七師団の団長なのですから、彼が適任でしょう。彼等の動向を探るのなら、吉原を任せてからです。要求を満たさない限り、良くも悪くも動きませんよ。」

大体、私は彼等をもとからきちん見ていたのだから、そんな風に疑われるのは、酷く心外だ。

「何か有ったら、私だって遊んでいるわけじゃありません。ちゃんと見てるんですから気付きますよ。神威を殺す事だって、出来ない事ではありません。だから、つかせたんでしょう?私を」

そう言えば、上も納得したらしく、そのまま私を仕事に戻した。吉原は、神威の思惑通り、彼の管理下におかれるだろう。

何を企んでいるかは知らないが、よっぽどの事をしない限り、私は彼等を止めるつもりはないし、その企みがよっぽどの事であるようには思えない。

なので私は少し阿伏兎に話をしただけで、その後吉原の件にはあまり触れなかった。正直、どうでも良いのである。それなのに。

「ありがとう。」

「は?」

「って言って来いって阿伏兎に言われてね。」

それなのに、彼等は勘違いをする。私が第七師団の為に、上に話をしてくれていると。そんなことあるわけがないのに。どうでもいいだけなのに。

「あー、どういたしまして。」

それでも、私は、ありがとう。が嬉しくて、思わず顔が緩むものだから自分でも勘違いしそうになってしまうのだ。

私は、自分の立場が悪くなるようなら、簡単に、彼等を切り捨てられるのに。それでも、彼の感謝は酷く心地良くて。柄にもなく、力になってあげたいなんて思えてくる。

「今度からなんかするときは、せめて相談しなさいよ」

にっこり笑うだけの彼は何を考えているのだろう。私にはわからない。



2010/09/12
これも去年の冬に書いたやつです。結構直しました。
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