脆弱で強固な気持ち


「団長は勝手過ぎます。」

「それがどうしたっていうんだい?」

ニッコリという効果音でもつきそうな微笑みを浮かべ、団長は言った。

そんな問題、確かに彼からすれば些細な、否、問題ですら無いだろう。しかし私達からすれば大問題だ。

私は行かなかったが、この前の吉原の一件では、この馬鹿のせいで一人が犠牲になったし、他にも彼の勝手は、周りに沢山の被害を及ぼしている。それはかなり大きな問題だ。

「少しは周りの事を考えたら如何ですか?」

「周りの事を?俺が?寝言は寝て言いなよ。そんなことしたら、隕石が降るよ。」

「普通自分で言いませんよそれ。」

私の言葉に、彼はケラケラと笑う。三つ編みが揺れた。ピンク色の綺麗な髪。桜みたいで、今にも散ってしまいそうな、とても儚げなイメージが沸くが。しかし、決してそうではないのだ。
彼は、彼のピンクには、棘がある。薔薇の様な。一見可愛らしく見えても、彼に近付けば、必ず傷付き、痛い目にあう。周りを不幸にする。不幸の桜色。

「俺はね、多分これからもこうだよ。」

「わかってます。」

「嫌かい?」

その質問に私が黙り込むと、彼は肯定だととったらしく、嫌なら仕方ないな。とニッコリ笑った。

そして、俺とあんたは相容れない存在みたいだ。と、ため息をつくように漏らし、彼は手を伸ばし、私の首をしっかり掴む。

「何を…するつもりですか?」

「俺はね。女は殺さない主義なんだ。強い子を産むかもしれないからね。」

「それがどうしたんですか?」

「でもあんたは、そんな損得勘定出来ないくらい殺したくて堪らない。殺したって損はあっても得はないのに、あんたが俺を嫌だと、嫌いだと言うなら、いつかあんたがどっかへ行ってしまう前に殺したいと思う。」

彼は珍しく。真顔になった。彼の手に力はまだ入らない。首にかけていた手がするりと私の顎に移動した。これはキスする態勢だ。

「だからね、」

そう言うと、彼はキスをせずに今度は腕を腰に回して私を抱き締めた。一瞬だけ見えた。らしくもない、苦しそうな顔。錯覚かと思ったが。私を抱き締めている彼の腕は震えている。らしくもない。本当に団長らしくもない。

「れを、」

絞り出すような声。全てがらしくない。耳元で聞こえたのは、子供みたいな、縋るような、そんな声。大切なものを必死に放すまいとするような。どこまでも普通な。

「…いに、ならない、で」

俺を嫌いにならないで。そう聞こえた。わからないのだろう、彼は。自分のその言葉が何を表すかも、その言葉に含まれた、自分の気持ちすらも。

不安だったのかもしれない。自分で気付いておらずとも。拒絶が怖かったのかもしれない。わからない人なのに、自分でも自分をわかっていないような人なのに。わからない。と言われるのが怖かったのかもしれない。

「嫌いじゃないですから。」

彼の頭を子供を宥めるように撫でながら、私は言う。

「嫌いになんか、なりませんから。」



2010/09/12
へたれ神威。去年の冬に書いたのを直しました
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